本研究は、博物館内の展示品にかかわる振動対策ではなく、文化財移送時に生じる振動の影響に注目した研究であり、2012年3月~2014年2月の2カ年にわたってTBS主催が全国巡回を展開した『インカ帝国展』の各会場への展示品移送時に展示品と共にデータロガを設置し、移動時の振動に関わる加速度や梱包箱内の温湿度を計測し、文化財・美術品搬送時に実際生じる種々の局面での振動・温湿度について考えた。 この振動に就いては人的移動、車両、昇降機材による移動、航空機への積み下ろし、航空機の発着環境、道路路面環境等のさまざまな局面において異なった振動が予想され、その影響も異なることが考えられた。また、梱包容器内の温湿度については、季節、搬送車輛環境、航空機内環境が大きな影響を及ぼすと考えられた。 文化財の移送時には外気温度は、大きく影響を与えるということである。そのため展示品の移送手段によってクレート内の温度も異なる。トラック等の車輛は外気の温度に敏感に影響を受けるため、走行時の速度や時間帯への留意が必要であり、航空機は車輛以上に外気の影響が強い。しかし船舶(フェリー)での展示品移送は外気が船体とトラックの二重の防護が働くためクレート内温度の変化は少ない。展示品の中で金製品などの金属製品を納めたクレートは、際立って温度に敏感と言えるが、しかし、布製品等を納めたクレートの温度の変化はあまりなかった。 湿度もまた移送時に外気に影響された。しかし、それは通年での緩やかな変化である。また展示品移送に際して、梱包された展示品の素材によって湿度変化があるのではと考えていたが、今回の調査ではコンポされている展示品ではなく、梱包材の影響による湿度変化と考えられる。
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