研究課題
未分化型胃がん(DGC)は浸潤能と転移能が強く、予後が悪い。我々は、細胞接着分子E-cadherin(CDH1遺伝子がコードする)とがん抑制因子p53(TP53遺伝子がコードする)を胃特異的に欠損する(DCKO)マウスを作製し、ヒトDGCに形態学的にも分子生物学的にも類似したDGCを発症する世界初のマウスモデルとして報告した。DCKOマウスのDGC由来細胞株(GC=Cdh1-/-;Trp53-/-)とp53ノックアウトマウス胎仔胃粘膜上皮細胞株(GE=Trp53-/-)を比較すると、①GC細胞株はGE細胞株よりも30倍以上強いスフェア形成能をもつ、②ヌードマウスに皮下移植すると、GC細胞株は100個の細胞でも腫瘍を形成するのに対して、GE細胞株は10万個の細胞でも腫瘍を形成しない、③GC細胞株は細胞傷害性の抗がん剤(5-Fluorouracil・Paclitaxel)に対して強い耐性があることがわかった。以上より、GC細胞株はがん幹細胞的性質を持つと考えられた。両細胞株について既知のがん幹細胞マーカーの発現を比較すると、GC細胞株のみにおいてその1つが陽性であり、またGC細胞株をスフェア形成させるとそのマーカーの発現が上昇することがわかった。現在、Cdh1をノックダウンしたGE細胞株(Cdh1-low;Trp53-/-)において、そのマーカーが陽性となり、がん幹細胞的性質を獲得するようになるかを解析している。マイクロアレイ解析の結果より、DCKOマウスのDGCではエピジェネティクス変化が生じていることがわかった。そこでGC細胞株にエピジェネティクス治療薬を処理した結果、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬がGC細胞株のスフェア形成を顕著に阻害した。現在、GC細胞株を皮下移植したヌードマウスにエピジェネティクス治療薬を投与して、腫瘍増殖抑制効果を検証している。
2: おおむね順調に進展している
本研究の主題としては、①E-cadherinとp53のin vitroでのノックアウト/ノックダウン、②Cdh1-/-;Trp53-/-という遺伝的背景をもつ細胞の遺伝子発現とエピジェネティクスの解析、③①と②の解析結果を利用した新規治療方法の開発の3項目がある。①E-cadherinとp53のノックアウト/ノックダウンにより胃粘膜上皮細胞にどのような変化が生じるのかin vitroで解析する方法として、GE細胞(Trp53-/-)においてCdh1をノックダウンする実験系が有望であると考えられた。また、その変化としてがん幹細胞的性質の獲得が重要であることもわかり、そのマーカーの同定も進んでいる。Cdh1のshRNAベクターを作製しており、GE細胞株にトランスフェクションする実験系も開始している。②マイクロアレイ解析の結果、GC細胞株(Cdh1-/-;Trp53-/-)ではグローバルなエピジェネティクス変化が生じており、さらに、DCKOマウスのDGCにおいてヒストン修飾に関連するエピジェネティクス制御因子の発現が上昇していることがわかった。③②の結果より、GC細胞株にはエピジェネティクス治療薬が有効であると考えられ、エピジェネティクス治療薬のスクリーニングを行った。現在、それらのエピジェネティクス治療薬のin vivoでの効果を検証しているところである。
本研究の主題①については、GE細胞株にCdh1のshRNAベクターをトランスフェクションする。そして、現在解析中のがん幹細胞マーカーが陽性となるかどうかを確認するとともに、スフェア形成能や造腫瘍能、抗がん剤耐性などのがん幹細胞的性質を獲得するかを解析する。主題②では、GC細胞株とGE細胞株のヒストン変化をWestern blottingを利用して比較する。同様の変化が、①のCdh1をノックダウンしたGE細胞株でも生じるか、経時的に観察する。特に、がん幹細胞マーカーの発現がエピジェネティックに調節されている可能性が高いので、ChIP(chromatin immunoprecipitation)を利用して、ヒストン修飾の変化を定量的に解析する。主題③においては、既存のエピジェネティクス治療薬のスクリーニングをさらに行う。追加候補としては、Lsd1阻害薬Tranylcypromine、Suv39h1阻害薬Chaetocin、G9a阻害薬BIX-01294などである。in vivoに関する研究では、ヌードマウス皮下移植腫瘍に対するエピジェネティクス治療薬の効果について解析を進めているが、今後は担がんDCKOマウスにエピジェネティクス治療薬を投与して、腫瘍径の縮小や生存期間の延長が認められるかについても検討する。
ChIPアッセイ用試薬、細胞培養用消耗品や複数のエピジェネティクス治療薬の購入に使う。
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