研究課題/領域番号 |
24650610
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
駒田 雅之 東京工業大学, 生命理工学研究科, 准教授 (10225568)
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研究分担者 |
傳田 公紀 東京工業大学, 生命理工学研究科, 助教 (50212064)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 腫瘍 / 乳腺 / 細胞増殖 / タンパク質 / 酵素 |
研究概要 |
NrkはX染色体にコードされたSer/Thrプロテインキナーゼである。当研究室のこれまでの研究から、Nrkを欠損したメスのマウスにおいて出産経験後に90%という高い確率で乳腺腫瘤が発症することがわかっており、組織学的解析からこれは乳癌ではなく乳腺症に近い症状であることがわかっている。本研究においてマウス組織におけるNrkの発現を調べた結果、乳腺においてはその発現が見られなかった。一方で、出産後の卵巣においてNrkの発現が見られた。そこで卵巣から分泌され乳腺症の発症に深く関わるホルモンであるプロゲステロンとエストロゲンの血中および卵巣におけるレベルを測定した結果、乳腺腫瘤を発症したマウスにおいてプロゲステロンのレベルに大きな変化はみられなかったが、エストロゲンのレベルが顕著に上昇していることが明らかとなった。この結果は、Nrkが卵巣におけるエストロゲンの生合成を抑制する働きをもつことを示唆しており、以上の結果から、Nrkが血中エストロゲン濃度を下げることにより乳腺上皮細胞の増殖の負の制御を行っていること、そしてその破綻が乳腺腫瘤の発症につながることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、出産を経験したNrk欠損マウスにおいて乳腺腫瘤が形成されるメカニズムを解明することを目的としている。今年度の研究成果、すなわち乳腺腫瘤を形成したNrk欠損マウスの卵巣で正常マウスでは見られないNrkの発現が検出されたこと、さらに乳腺腫瘤を形成したNrk欠損マウスの血中エストロゲン濃度が著しく上昇していることは、成体マウスにおける主要なエストロゲン産生組織が卵巣であることを考えると、「Nrkが卵巣におけるエストロゲン生合成を抑制することによって乳腺上皮細胞の増殖、乳腺腫瘤の発症を抑制する」という可能性を強く示唆するものである。したがって、今年度の研究成果は乳腺上皮細胞の新たな増殖制御機構の解明に向けて大きな進展があったものと考えられ、本研究課題は期待通りに進捗していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の研究成果から導き出された「Nrkが卵巣におけるエストロゲン生合成を抑制することによって乳腺上皮細胞の増殖、乳腺腫瘤の発症を抑制する」という仮説を検証するために、出産後のマウス卵巣におけるNrk発現細胞を卵巣の組織切片におけるin situハイブリダイゼーション法や免疫染色法を用いて同定する。さらに、Nrkを欠損した卵巣においてエストロゲン生合成に関わる酵素の発現や酵素活性を検討し、Nrkがエストロゲン生合成を抑制する分子メカニズムの解明をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究が順調に進んだため、実験試薬やプラスチック器具などの消耗品購入のための支出を予定よりも抑えることができ、そのために残額が発生した。次年度の研究(「今後の研究の推進方策」に記載)のためには、引き続き、組織化学的実験、分子生物学的実験、生化学的実験に用いる多くの実験試薬やプラスチック器具などが必要である。そのため、主に物品の購入に研究費をあてる予定である。
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