本研究課題ではゴルジ体のPI4P(ホスファチジルイノシトール4リン酸)が、がんの悪性化の際に見られる上皮間葉転換を制御することおよびその機構の解明を目的とした。 乳がん細胞株を用い、ゴルジ体においてPI4Pを産生するキナーゼおよび脱リン酸化するホスファターゼのノックダウンによりゴルジ体のPI4P量を変化させた。その結果、PI4Pの増加により細胞間接着の減少、上皮間葉転換マーカーの上昇および運動能の亢進が、逆にPI4Pの減少により細胞間接着の増加、上皮間葉転マーカーの減少および浸潤能の抑制が見られた。これらは上皮間葉転換における現象であり、ゴルジ体のPI4P量の変化によりがんの悪性化が制御されていることを明らかにした。 次に乳がん細胞株において上皮間葉転換の誘導によりゴルジ体のPI4P量が上昇すること、また悪性度の高い乳がん細胞株では低い乳がん細胞株と比較してゴルジ体のPI4P量が多いことを示した。さらに、乳がん患者においてステージの進行に伴ってPI4P産生キナーゼの発現増加およびホスファターゼの発現減少が見られることを示した。以上の結果から実際にがんの悪性度とゴルジ体のPI4P量が比例することを明らかにした。 最後にPI4Pの下流でこれらを制御する因子としてGOLPH3を同定した。GOLPH3はPI4Pとの結合によりゴルジ体に局在することが知られているが、ゴルジ体のPI4P量の変化に伴ってGOLPH3の局在も変化することを示した。またGOLPH3は細胞間接着、運動能、浸潤能を制御し、さらにこれらの制御にはGOLPH3とPI4Pの結合が必須であることを示した。さらに、in vivoにおいてもGOLPH3はPI4P結合依存的にがん細胞の転移能を亢進することを示した。 これらの結果より、ゴルジ体のPI4PはGOLPH3を介してがんの悪性化を制御することを明らかにし、論文として発表した。
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