研究課題/領域番号 |
24650622
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤田 雅俊 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (30270713)
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キーワード | ATM / Cdt1 / SNF2H / 細胞周期 / クロマチン |
研究概要 |
ATMキナーゼは、主にDNA二重鎖切断部位で活性化し機能する。我々は、ATMが染色体非ストレス時のS期において、複製開始制御因子Cdt1の分解を制御している可能性を発見した。この新たなATMシグナル経路の解明を目的として、研究を進めている。 今までに得られた知見をまとめると、以下のようになる。① ATMによるCdt1分解制御にはキナーゼ活性が必要である。② NBS1抑制もCdt1分解を阻害するので、MRN複合体もこの制御に必要であろう。③ Akt抑制、あるいはSkp2抑制は、ATM抑制と同じくCdt1分解を抑制した。よって、この新たなATM機能は、少なくとも部分的にはATM-Akt-Skp2経路を介しているであろう。以上の結果をまとめ、平成25年度に論文として発表した。しかし、ATMがどのようにAkt-Skp2経路に影響を与えているのかは未だ不明であり、今後の検討が必要である。 一方、人工的染色体構造改変によるATM活性化系の構築に向けて、平成24度に多コピーLacO配列を保持するヒトHT1080 細胞を樹立し、併せてLacI融合Cdt1、SNF2H、CDC6等の発現ベクターを構築し、解析を開始した。しかし、 HT1080細胞ではLacO配列が不安定であることがわかり、新たにラットRat1細胞を用いてLacO配列安定保持細胞を樹立した。樹立細胞を用いて解析を進めた所、LacI-Cdt1のLacOへの集積により、クロマチンリモデラーSNF2Hがリクルートされることが示唆された。これにより、多コピーLacO配列のクロマチン構造が変化するのかどうか、さらにATMが活性化するのかどうかを今後調べて行きたい。クロマチン構造変化の同定法としては、昨年度記載したFAIRE法(formaldehyde-assisted isolation of regulatory elements)を用いる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的に、概ね順調に進んでいると考えている。ATMが外因性ストレスのないS期において複製開始制御因子Cdt1の分解抑制を制御するという新たな機能を持つこと、そしてこの機構には少なくとも部分的にはATM-Akt-Skp2経路が関与していることを明らかにし、すでに論文発表した。しかし、ATM-Akt-Skp2経路だけではすべての現象を説明できず、他の経路も存在していると考えられる。恐らく、複数の経路がredundantに関与していると考えている。 一方、人工的染色体構造改変によるATM活性化系の構築に関しては、平成24度に樹立した多コピーLacO配列を保持するヒトHT1080 細胞を用いて解析を開始したが、結果当該細胞ではLacO配列が不安定であることがわかり、解析に適さないと判断した。そこで、新たにラットRat1細胞を用いてLacO配列安定保持細胞を樹立した。この細胞では比較的安定にlacO配列が保持され、解析可能と判断し解析を進めた。その結果、LacI-Cdt1のLacOへの集積により、クロマチンリモデラーSNF2Hがリクルートされることが示唆された。これにより、多コピーLacO配列のクロマチン構造が変化するのかどうか、さらにATMが活性化するのかどうかを今後調べて行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、ATMが染色体非ストレス時のS期において複製開始制御因子Cdt1の分解抑制を制御するという新たな機能を持つこと、そしてこの制御は少なくとも部分的にはATM-Akt-Skp2経路を介していると考えられることについては、すでに論文発表を行った。他の重要なATM-Cdt1経路の解明については、そのredundancyから解析は難しいかもしれないと考えている。 人工的染色体構造改変によるATM活性化系の構築に関しては、上述したように、多コピーLacO配列を安定保持するラットRat1 細胞の樹立ができ解析を始めることができたので、これを推進して行く。まず、LacI-Cdt1のLacO部位への集積により、SNF2Hがリクルートされることが示されつつあるので、実験を重ねこれを確かなものにする。その後、① ATMが活性化されるのか(ATMのリン酸化やATM基質のリン酸化を免疫染色で検討)、また② LacI-Cdt1により同部位のクロマチン構造は影響を受けるのか(FAIRE-qPCRやヒストンChIP-qPCRで検討)を調べたい。以上の結果が得られた場合、③ SNF2Hのsilencingにより、ATMの活性化は起きないのかどうかを明らかにし、④ SNF2Hと結合できないCdt1変異体を作製し、ATM活性化に欠損があるのかどうかも調べたい。なお、同部位でLacI-Cdt1の結合によりDSBが起きていないのかどうかは、ligation-mediated PCR法にて検定することを考えている。これらにより、クロマチン構造変換でATMが活性化しうることを示すことが出来れば、非常に興味深いと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述したように、多コピーLacO配列を保持するヒトHT1080 細胞がその後の実験に不適格であることが判明したため、新たに多コピーLacO配列を安定保持するラットRat1 細胞の樹立を行った。そのため、その後の解析の一部が平成26年度にずれ込んだ。 上述した今後の研究方針に従い、平成26年度の研究費と併せ、研究の邁進のために適切に執行して行きたい。
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