研究課題/領域番号 |
24650623
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
安部 良 東京理科大学, 生命医科学研究所, 教授 (20159453)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | マスト細胞の腫瘍化 / マスト細胞の分化 / サイトカイン感受性 |
研究概要 |
本研究は、培養環境により、細胞増殖におけるサイトカイン要求性が変化する新規マスト細胞系細胞株(R cell)を用い、マスト細胞の分化や増殖、他の細胞リネッジへの分化、さらには腫瘍化プロセスに関わるメカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度は研究実施計画に沿って、R cell を限外希釈法でクローニングしたのち、R cell 増殖因子(RCGF)の添加量を調節することにより、低濃度のサイトカインにより増殖反応性を示す細胞や、サイトカイン非存在下で自立増殖性を示す細胞をin vitroで人為的に誘導することができることを示した。これまで3回行った誘導実験の結果、サイトカイン感受性の異なるマスト細胞系細胞株のパネルを得ることができた。 一方、すでに本研究室で確立した、生存・増殖に高濃度のサイトカインを要する細胞株(R cell),低濃度のサイトカインで増殖・維持ができる細胞株(R2.5 cell)、in vitroでの自立増殖性と、in vivoでの腫瘍原生を持つ細胞(RCCM)を用いて、サイトカイン感受性の決定に関与する要素を解析した。その結果、低濃度のサイトカインで増殖する細胞株(R2.5 cell)、あるいはサイトカイン無添加で増殖する細胞株(RCCM)では、cKitの自己リン酸化が観察され、cKitの活性型として知られている814番目のアミノ酸の点変異が認められた。これらの細胞株をBALB/cの皮膚に移植したところ、この両細胞株のうち、自己増殖性を示すRCCMのみ腫瘍塊の形成、複数臓器への転移が確認されたことから、活性化型kit mutation(D814Y)は腫瘍原生を決定する十分条件ではないことがしさされた。一方、RCCM とR2.5のリン酸化パターンから、STAT5の関与が示唆され現在検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間内に明らかにすることとして、(1)マスト細胞系のサイトカイン感受性決定メカニズム、(2)マスト細胞のサイトカイン依存性制御の破綻による腫瘍化メカニズム、(3)マスト細胞系から樹状細胞系への分化メカニズム、(4)マスト細胞系表現型から好塩基球系表現型へ、またその逆方向へ変化する可塑性メカニズム、の解明とそれに関与する遺伝子、分子の同定を行うとした。 本年度は、(1)について、R cell を限界希釈法によりクローニングしたのちにRCGF 添加量を徐々に減少させることで、サイトカイン感受性の異なる細胞を樹立し、in vitro での増殖反応やin vivo での腫瘍原性を検討した。この過程で、元のR cell と比較し、サイトカインの感受性が100 倍高い細胞や自律増殖性、腫瘍原性を有する細胞を、それぞれ数種類樹立することができ、これらの細胞の細胞表面分子の発現や、RCGF刺激前と刺激後に起こる細胞内タンパク質のリン酸化パターンを解析した。(2)については、すでに当研究室で確立されている、生存・増殖に高濃度のサイトカインを要する細胞株(R cell)、低濃度のサイトカインで増殖・維持ができる細胞株(R2.5 cell)、in vitroでの自立増殖性とin vivoでの腫瘍原性を持つ細胞 (RCCM)よりそれぞれmRNAを採取し、サイトカインシグナルや細胞周期に関与する遺伝子発現を調べた。 一方、(3)、(4)については、数種類のR cell sublineをIL-3を始めとするrecombinant cytokineを添加して培養することにより樹状細胞などの他の細胞系列への誘導を試みている。 以上、申請書の平成24年度に予定していた実験は着実に進行しており、充分な達成度に至っていると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
限外希釈法によりクローン化した単一のR cellより誘導した、サイトカイン高感受性や自律増殖性、腫瘍原性を獲得した細胞のDNAマイクロアレイにより、それぞれの形質の獲得に関与する遺伝子を網羅的に調べる。前年度の結果と合わせ総合的に解析し、R cell のサイトカインに対する感受性決定に関わる候補遺伝子を選び、それぞれのR cell における遺伝子発現、蛋白質発現などを検討する。既知のレセプターであれば、そのリガンド(サイトカイン、ケモカイン、細胞表面分子)のR cell に対する増殖能、生存維持能などを調べる。また、当該レセプター下流のシグナルカスケードのリン酸化などを検討する。転写因子を含む細胞内シグナル伝達分子の増減が見られた場合、同定された分子を強発現もしくはノックダウンし、RCGF への感受性にどのような影響があるか検討する。機能未知の遺伝子であれば、クローニングしてその機能解析をおこなう。また、腫瘍原性への関与が予想される遺伝子については、腫瘍形成能のないR cell に候補分子を強制発現させ、腫瘍形成能獲得の可否の検討、及び shRNA を用いたノックダウンや特異的インヒビターによる腫瘍形成能の喪失について確認することにより、関与の有無を明らかにする。 これまでの研究において本研究室で樹立したRCCMに、本研究で得られた新たなサイトカイン非依存性の3種類のR cell lineを加えた4種類のR cell lineのうち、2種類はc-Kitチロシンキナーゼの恒常的活性化変異(D814Y)が見られたれたものの、残り2種類は野生型c-Kitを発現していた。来年度はこれらの細胞を使ってcKit経路の活性化異常以外の腫瘍化メカニズムの解明に取り組む。 上記研究と平行し、マスト細胞様細胞から好塩基球や樹状細胞のような他の細胞系列への分化の試みを継続する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
|