近年、細胞の分化状態は以前考えられていたよりも比較的容易に制御可能である事が分かって来た。その最たるものがiPS細胞であるが、がん細胞についても同様に分化状態を変更できるかどうか検討して来た。iPS細胞を作成するのに使われる転写因子をがん細胞株に導入した場合、形態の変化や幹細胞マーカーの発現は見られたが、完全な理プログラミングは困難であった。一方、がん細胞の分化状態を適切に制御する事で、がん免疫を増強する事が出来ないかどうか検討して来た。我々はマウス脳腫瘍の株を入手し、その亜系の一つはがん幹細胞として働く事、もう一つは腫瘍形成能がないことを確認した。これらの細胞の発現する免疫関連分子を検討すると、前者でMHC class Iが比較的高く発現している事が判明した。MHC class I はNK細胞の抑制を担う分子として知られる。がん幹細胞様の細胞は、NK細胞を抑制する事で生体内で腫瘍形成能を発揮している事が示唆された。実際、試験管内の細胞傷害試験を行うと、がん幹細胞様の細胞の方がNK細胞による細胞傷害に対して抵抗性であった。同細胞をマウス生体に投与して腫瘍形成を見た。この時に抗アシアロGM1抗体でKN細胞を除去する群を作製した。しかし、予想に反して、NK細胞の有無は生体における腫瘍形成頻度に影響を与えなかった。現在、NK細胞以外の免疫細胞による影響を見るべく、同様の細胞除去実験を行っている。
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