研究課題/領域番号 |
24650638
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鉢村 和男 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (90286378)
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研究分担者 |
佐藤 雄一 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (30178793)
長塩 亮 北里大学, 医療衛生学部, 助教 (40618568)
狩野 有作 北里大学, 医学部, 准教授 (50245388)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 抗p53抗体 / 自己抗体 / 低親和性抗体 / 乳癌 / 肺癌 / evanescent |
研究概要 |
(1)エバネセント波励起蛍光法(EN法)による抗p53抗体測定:まず(EN法)による,抗p53抗体測定条件の最適化を図った.試行錯誤の末,基盤吸着p53蛋白濃度は10ug/ml,吸着量は4nl,患者血清は100~500倍,標識抗体は100倍希釈で患者血清の希釈系列に則した結果が得られるようになった. (2)乳癌患者における抗p53抗体のEN法およびELISA法結果との相関分析:乳癌患者24例についてEN法で抗p53抗体を測定しELISA結果と相関分析を行った.R2 = 0.540と低い相関となった.この要因は4例がELISA法低値,EN法高値と乖離した結果に拠るものと考えられた.同時に測定した9例の健常者の平均+2SD値よりこれら4例はすべて高値であり,EN法では陽性と判定できる可能性(測定健常者数が少ないので参考値)があり,ELISA法での結果はすべて基準上限以下の陰性であった. (3)洗浄による低親和性抗p53抗体の抗原からの剥離:EN法はその測定原理からB/F分離を必要としないが,(3)の実験に意図的に洗浄操作を加えて再度(3)と同様の相関分析を行ったところ,R2 = 0.944とELISAと良好な相関が得られた. (4)平成24年度研究実績のまとめ:EN法による抗p53抗体測定条件を決定した.ELISA法高値検体はEN法でも高値を示し,健常者はEN法でもすべて低値であったが,ELISA法とEN法で結果の乖離例が認められた.乖離は全例ELISA法陰性,EN法陽性であり,診断感度が低いと云われている抗p53抗体検査の感度を,EN法は飛躍的に上昇させるかもしれない.洗浄操作を加えるとEN法でも低値化(陰性化)することを確認した.洗浄を行っても結果に変化が認められない症例や,低下が1/2程度の症例なども確認されたことから,患者間・患者内で親和性の異なる抗体の混在が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度研究実施計画は,「①EN法による抗p53抗体測定」,「②抗p53抗体測定におけるELISA法とEN法の相関分析」を行うことであった.そのため,当初の研究計画は達成されているが,EN法による抗p53抗体測定の最適化条件を決定するのに難航し,症例数を増やすことが出来なかった.加えて,EN法で使用するエバネセント波を利用した検出機GlycoStation™は,グライコテクニカ社から無償借用しているが,台数が少なく,同機を同社でもルーチン的に使用している.そのため借用できる時間には制限があり,実験したいときに自由にできる環境ではないことも症例数をこなせなかった要因のひとつであった. しかしながら,年度終盤までには測定条件を決定することができ,患者検体を測定できるようになった.平成24年度中に測定した症例数では相関分析が行えるほではないが,少ないながらもEN法とELISA法での結果乖離症例も見出されている.本研究の主目的のひとつである低親和性抗体の可能性が示唆される結果が得られたことは,今後の研究に十分な期待を持たせるものである. 平成24年度の達成度評価として,計画通りには進んでいるものの測定症例数をこなせなかった点から,評価は「やや遅れている」とした.
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今後の研究の推進方策 |
24年度では,研究計画通り遂行できたものの測定症例数が少なく,EN法とELISA法での乖離例は確認できているものの,低親和性抗体の存在をまだ完全には証明できていない.そのため,症例数を200例程度まで増やし,抗p53抗体についてEN法とELISA法の相関分析を完成させる.乖離例から,B/F分離を必要とするELISA法では偽陰性化してしまう低親和性抗体の存在を明らかにし,EN法の優位性を唱えたい. 申請時の25年度計画は,「①複数の腫瘍関連抗原による肺癌患者血清中の腫瘍関連自己抗体の検出」および「②経過観察と臨床検査診断能の評価」であり,24年度がほぼ計画通り遂行できたため本年度は当初の計画通り推進させる. 既に作製を発注しているEN法のアレイには,p53,Estorogen R (ER),Progesteron R,HER2,CEA,CYFRA21-1,CA15-3を固相化する.本研究の最終ターゲットは肺癌であるため肺癌関連の蛋白と,24年度では抗p53抗体の測定から開始したことから(抗p53が唯一の腫瘍関連自己抗体検査として保険収載検査→EN法の結果をELISA結果と比較できる)乳癌関連でも知見を得,外部発表する. 纏めると,今年度は乳癌患者における抗p53抗体のEN法による検出について,その診断感度を確認,ELISA法と比較し年度中頃までには結論を出す.加えて,本年度の主研究である肺癌関連蛋白に対する自己抗体の有無をEN法ではじめて検索する.製作依頼中の蛋白はメジャーなものであるが,それらの自己抗体については報告がなく興味深い試みとなる.更に,当研究室で既に報告している肺癌関連自己抗体(Dot-blot法)に対する抗原蛋白についても,次回アレイ作製依頼時には固相化させEN法での検出を試み,これらの結果を我々の既報告および臨床病理学データと照らし合わせる.
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の直接予算である60万円は,ほぼ計画通りに執行できた.25年度は,24年度より70万円多い130万が予算となる. 本研究の予算の多くを占めるのは,産業総合研究所に合成依頼する蛋白費用と,GPバイオテクニカ(旧GPバイオサイエンス)社へ作製依頼するEN法用のアレイ作製費である.24年度は,主に抗p53抗体のみを測定したため,研究計画申請時でも初年度予算は抑えた額を申請した.今年度は多くの蛋白の合成を依頼する予定であり,それに伴ってアレイ発注も24年度より多くなる. 予算額は十分とまではいかずとも,130万円のうち115万円を物品費に充ており,見合った額が支給されているため研究遂行に支障はないと思われる.研究推進に伴って,あらたに必要となった機器等はない. また,特許申請の関連から本研究に関する発表や報告は24年度は行わなかったが,25年度は,特許申請が厳しいかもしれない経緯もあり,旅費の5万円を学会発表用に充てる予定である.加えて,その他の10万円は論文発表用に充当させる予定である.
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