研究課題/領域番号 |
24650638
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
鉢村 和男 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (90286378)
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研究分担者 |
佐藤 雄一 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (30178793)
長塩 亮 北里大学, 医療衛生学部, 助教 (40618568)
狩野 有作 北里大学, 医学部, 准教授 (50245388)
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キーワード | 抗p53抗体 / evanescent / 診断感度 / 乳癌 / 抗腫瘍関連自己抗体 / 多種抗体同時測定 / 肺癌 |
研究概要 |
1.エバネセント波励起蛍光法(EN法)による抗p53抗体測定の確立と診断感度:平成24年度の研究実績により,エバネセント波励起蛍光法(EN法)による抗p53抗体の検出は,現行法であるELISAより高感度である可能性を示唆した.平成25年度は,その測定条件を最適化・確立し,新たに抗p53結果がELISAで既知の乳癌患者に対しEN法で測定した.乳癌と診断された64例で,抗p53抗体のELISA(北里大学病院臨床検査部データ)とEN法結果を比較すると,ELISA陰性例54例中9例(16.7%)がEN法では陽性となった.ELISA陽性例10例は,EN法でも全例陽性であった.現行ELISAでの乳癌陽性率は18.3%であり(Cancer, 97: 682, 2003),陰性率は81.7%となる.この陰性例のうち16.7%が陽性となる可能性を今回の結果は示唆し,陽性率が13.1%(81.7×0.16)上昇する.最終的な乳癌の陽性率は31.4(18.3+13.1)%となり(今回64例での陽性率は29.7%(19/64)),EN法はELISAの1.7倍の診断感度を推定される結果を得た. 2.結果解離例の組織免疫染色:EN法のみ陽性のELISAとの結果乖離例で,組織の免疫染色が可能であった6例すべてで組織中のp53タンパクの異常発現が確認された. 3.抗p53抗体以外の腫瘍関連自己抗体の同時検出:ER,PgR,HER2,CEA,CYFRA,CA15-3に対する抗体も同一患者で多種同時測定し,CA15-3やPgR,HER2,CEAに対する抗体も14.1~20.3%の割合で検出された.抗体陽性は患者間で異なり,同時測定6抗体のうちどれか一つ以上が陽性となった患者の割合は45.3%に及んだ. 4.特許出願:結果を基に,関連技術で2件の特許申請を行った(特願2014-048169,084841).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度では,EN法による抗p53抗体測定法の最適化が完了し,24年度に続いてELISAと比較し有用な抗p53抗体測定法であることが確認できた.ELISAとの相関分析でもELISA陽性例とでは良好であり,量的な相関関係に加え,両方法で陽・陰性結果の解離は一例も認められなかった. 一方,7種の乳癌関連の腫瘍マーカーに対する自己抗体を同時測定したところ,抗p53抗体が陰性でも他の自己抗体が陽性である患者を確認できた.EN法でのアレイに固相する抗原濃度や血清希釈倍率などの測定条件も抗p53抗体測定と同一でよく,多種の抗腫瘍関連自己抗体を同時に検出する技術を得ることができた.腫瘍関連自己抗体の検出に関しては既に多くの報告があるが,それらのほとんどがELISAによるものであり,それでも多種の自己抗体の同時測定を勧めている(Int J Cancer, doi:10. 1002/ijc.28807, 2014[Epub ahead of print]).本研究結果によるEN法のELISAに対しての優位性を考慮しつつ,操作法の上でも,固相使用抗原量(標準的なELISA;1~10μg/mlを100μl,EN法;1~10μg/mlを4nl)は格段に少量で済み,且つ検査使用患者血清量(標準的なELISA;10倍希釈を100μlで1テスト,EN法;10倍希釈を100μlで同時に135テスト)も圧倒的に少量で実施でき,しかもそれら多項目が同時に測定可能となる. 最終目的である肺癌患者に対する腫瘍関連自己抗体の測定は平成25年度中に実施できなかったが,EN法評価の基準となる現行抗p53抗体測定法であるELISAとの比較で,多種同時測定も可能となった研究成果は大きい.最終年度である26年度で,当研究室でストックしている肺癌患者について腫瘍関連自己抗体測定を短期間で終了し,その研究成果を期待したい.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は本課題研究の最終年度であり,肺癌患者について精力的にEN法による腫瘍関連自己抗体の検出を進める.25年度までの結果から,乳癌患者では一般的な乳癌関連腫瘍マーカーに対する自己抗体も検出されたことから,肺癌患者で日常的に測定されている肺癌マーカーに対する自己抗体を測定する.具体的な腫瘍蛋白として,乳癌患者でも測定したp53ほか7抗原のほか(乳癌と肺癌での自己抗体の違いを考察する目的で),SLX,SCC,ProGRP,NSE,CA125に対する自己抗体を測定する.その他,当研究室では肺癌や他の癌に対する新たな腫瘍抗原や関連自己抗体を報告しており(Biomed Res, 35:25-35,2014.PLoS ONE, 7 : e33952, 2012.Int J Oncol, 40: 1957-1962, 2012.Lung Cancer, 74 : 405-410, 2011.Lung Cancer, 69: 54-59, 2010),これらの蛋白も加える.それらは,プロテオミクス技術を応用した二次元電気泳動法および質量分析による抗原蛋白の同定や,イムノドット法による自己抗体の検出であった.イムノドット法は,原理的にはELISAと酷似しており,EN法による自己抗体の検出で,さらなる診断感度の向上が期待される. 現状のEN法は,一度に135スポットが固相化できる.3重測定でも45抗原,抗原濃度を異なる3濃度設けても15抗原に対する自己抗体の検出が可能であり,上記抗原の同時固相化は十分現実的である.精製蛋白の調達は,これまでと同様に産業技術総合研究所に依頼する.同研究所では22,000のGatewayエントリークローンを有し,コムギ無細胞蛋白質合成系により完全長蛋白が提供され,上記抗原蛋白も合成可能である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度中に実施予定であった肺癌関連自己抗体測定に関して,その測定に必要とする抗原蛋白の購入が未遂行であったために予算が残った. 平成26年度は多くの肺癌関連蛋白の購入を予定しており,それらの購入に25年度予算残額も充てる予定である.
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