研究課題/領域番号 |
24650639
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
清宮 啓之 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター分子生物治療研究部, 部長 (50280623)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | テロメア / 非コードRNA / がん / バイオインフォマティクス |
研究概要 |
テロメアはUUAGGG反復配列を持つ非コードRNA(TERRA)として転写されるが、その詳しい機能は不明である。我々は、ヒトがん細胞39株のテロメア関連バイオパラメータを数値定量化し、テロメア関連因子と様々な遺伝子・蛋白質発現の包括的な in silico相関解析を進めている。本研究では、同アプローチを起点にTERRAの機能解明を目指すことを目的として、以下の検討を行った。まず、ヒトがん細胞パネル39系よりRNAを抽出し、ノザンブロット法でTERRAを検出した。TERRAの長さは不均一であるため、シグナル強度と平均RNA長の2点で定量数値化を実施し、それぞれについてfingerprintを描出した。これをもとに、TERRAの発現様態と相関する細胞内因子を同定し、双方の機能的因果関係を明らかにする予定である。一方、我々は、テロメラーゼ触媒サブユニットhTERT、テロメア伸長促進因子タンキラーゼ1、あるいはテロメア伸長抑制因子TRF1のドミナントネガティブ変異体の過剰発現によってがん細胞のテロメアを人為的に伸長させた際、共通して様々な遺伝子群の発現が変化することを見出してきた。このことは、テロメアの構造が他の染色体領域におけるRNA転写に何らかの特異的な影響を与えていることを示唆する。今回、ヒト前立腺がんPC3細胞にhTERTを過剰発現させ、テロメアを伸長させると、細胞内でTERRA様RNAの発現が顕著に誘導されることが明らかとなった。今後は上記のin silico相関解析の結果を交えながら、このRNA発現の生物学的意義、特にがん細胞の形質に与える影響を明らかにしたい。本研究で得られる成果はがんの診断のみならず、核酸医薬によるがん治療にも応用可能と期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初期段階において、TERRA検出法の至適化と特異性の検証に一定の時間を要したが、要衝となるfingerprintを取得することに成功した。このパラメータデータをもとに包括的な in silico相関解析に着手したところであるが、これはルーチンに稼働しているものであり、今後さらに効率良く研究を進めることが出来ると期待される。一方、当初はH25年度の課題としていたテロメア伸長時のTERRA発現変化については、今年度、前倒しで基本データを取得することが出来た。したがって、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
TERRAとその他各種テロメア関連因子のfingerprintを比較し、TERRAの発現と有意な相関を示すバイオパラメータをリストアップする。テロメア関連因子以外の遺伝子・蛋白質発現のFingerprint Databaseについても相関解析を実施する。これらにより、TERRAと細胞内イベントの機能リンケージを予測する。同定されたバイオパラメータが何らかの遺伝子・蛋白質発現であった場合、siRNAの核内導入を検討したうえでTERRAの発現をsiRNAでノックダウンし、同因子(以下、X因子とする)の発現に対する影響を調べる。また、X因子を過剰発現もしくはノックダウンし、TERRA発現変化を調べる。X因子がキナーゼなどの酵素で阻害剤が入手可能な場合は、同剤によるTERRAの発現や局在への影響も調べる。本法で同定されるバイオパラメータ間の相関関係は、双方の因子の複合体形成を予見することも多いことが経験上明らかなため、RNA免疫沈降法により、TERRAとX因子の結合の有無についても検討する。結合が確認された場合は、X因子の各種欠失変異体を作製し、TERRAの結合部位を同定する。これらの検討により、TERRA結合能を消失した変異型X因子を細胞に発現させたときの形質変化を観察する。TERRAは主にテロメアで機能することが予想されるので、テロメア上でDNA損傷応答が起きていないか、免疫FISH法で調べる。このとき、前年度の検討で同定されたX因子とその機能経路の関与を勘案しながら実験を進める。さらに、細胞増殖・細胞死・細胞老化など増殖関連の形質を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費(試薬・消耗品)100万円、旅費(学会参加費)30万円、人件費・謝金15万円、その他5万円
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