ナノ粒子は、径 3 mm以下の微小腫瘍の血管から、また数 cmレベルの腫瘍であっても若い腫瘍血管から漏れにくく、それらの血管が血流を支配をする腫瘍領域には蓄積しない [enhanced permeability and retention (EPR) 効果が起きにくい] ことを見出した。しかし、腫瘍血管破断薬のコンブレタスタチン処置をすると、微小腫瘍にもEPR効果が誘導されることを、蛍光高分子ミセルを用いて明らかにした。最終年度は、高分子薬剤が特に漏れやすい腫瘍-宿主インターフェイス(T-HI)の血管に着目し、その構造と機能の解析を行った。また、コンブレタスタチン処置後doxorubicin封入ミセル投与群とdoxorubicin封入ミセル単独投与群との治療効果の比較検証を重ね、以下の成果を得た。(1) 電顕観察の結果、T-HI血管の内皮細胞には、腫瘍血管と比べ、vesiculo-vacuolar organelle(VVO)(高分子血管外移行に関係する細胞内小器官)が著しく豊富に存在した。(2) T-HI血管の血流はコンブレタスタチンで遮断されず、T-HI血管はコンブレタスタチン処置後も引続き高い血管透過能を保持した。(3) コンブレタスタチンとdoxorubicin封入ミセル併用群は、doxorubicin封入ミセル単独投与群よりも、LY80腫瘍の増殖を顕著に抑制した。しかし併用群でも、多くの場合、癌は辺縁部から再発した。(4) 辺縁部からの癌の再発は、T-HI領域に一過性の浮腫を誘導して、ドレナージ機能の低下を延長させることによって、防止することができた。高分子ミセルにおけるEPR効果促進には、内皮のVVOの存在、およびT-HI領域の微小循環機能の低下が重要であると結論する。本研究は臨床応用が可能であり大きな意義を有する。
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