我々の研究グループはこれまでにWarburg効果がミトコンドリア依存的細胞自殺の抑制を通じてがん細胞に生存アドバンテージを与えており、Warburg効果の解除によりがん細胞の細胞死( 治療)抵抗性を克服できる可能性を世界に先駆けて提唱してきた。さらにそのような可能性を実証するため腫瘍細胞のミトコンドリア呼吸を促進できる薬物を探索し化合物Xを同定した。我々はすでに化合物Xがin vitroにおいて培養腫瘍細胞に対する化学療法薬剤の殺細胞効果を増強することや、このような化合物Xのもつ殺細胞効果増強作用がミトコンドリア呼吸依存的であることを確認している。そこで本課題においては「Warburg効果や腫瘍低酸素ががん幹細胞維持に重要な役割を果たしている」という仮説を検証すべく、化合物Xががん幹細胞の幹細胞特性に与える影響を検討した。その結果、がん幹細胞を化合物Xに暴露すると、幹細胞マーカーの発現低下と分化マーカーの発現上昇、ならびに腫瘍形成能の低下が認められた。これらの結果はミトコンドリア呼吸の抑制ががん幹細胞特性維持に重要な役割を果たしている可能性を示唆するものである。興味深いことに、本課題の研究遂行過程で、この化合物Xはp53依存的に幹細胞維持タンパク質の分解を行うことでがん幹細胞の幹細胞性喪失を促進していることを示す全く予期せぬ結果を得た。これらの結果は化合物Xががん幹細胞の抑制を通じて腫瘍再発抑制に貢献しうる可能性を示唆している。さらに、これまでの研究は悪性脳腫瘍幹細胞を主な対象として行ってきたが、本課題では化合物Xが他のがん種に対しても同様の幹細胞抑制作用を持つことを見出した。
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