研究課題/領域番号 |
24651001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
古屋 正人 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60313045)
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キーワード | glacier surge / Yukon / West Kunlun Shan / SAR / Patagonia Icefield |
研究概要 |
「氷河サージ」とは、氷河の流動速度が平時に比べて数倍から数10倍も上昇する現象で、世界の特定の氷河で検出されてきた.しかし数十年からそれ以上に一度の頻度で発生する稀な現象であり,また現場観測の難しさから氷河サージの時間発展データは乏しく,その発生メカニズムは未解決である.本研究では氷河サージ発生メカニズムの解明を目指して,人工衛星搭載の合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar,SAR)のアーカイブデータを利用して,表面流動速度を高頻度に測定し,「氷河サージ」の時空間的発展や発生メカニズムを明らかにすることを目的とする. 西クンルン山脈の氷河は,Yasuda and Furuya (2013)で見いだした氷河サージがその後どのように進行しているかを,ドイツのSAR衛星TerraSAR-Xのデータに基づいて調べ,現在もなお進行中であることが分かった.また,Landsat衛星による光学画像データアーカイブを利用して,過去約40年にわたる西クンルン山脈の氷河末端位置の消長も調べた. 南パタゴニア氷原の氷河流動速度についても調べた(Muto and Furuya, 2013). 使用できるSARデータの時空間分解能の制約から,2002年から2011までの主要な8氷河に限られたが,PioXI氷河のサージ的な振る舞いが確認された.. ユーコン州やアラスカの山岳氷河は,従来から氷河サージが冬期に開始することが経験的に知られていた.前年度の研究から,サージしていない静穏期においても冬期に加速しており、しかも表面融解水が無いはずの上流から下流へ向かって伝搬する様子が捉えられた(Abe and Furuya, 投稿中).この事実がどの程度普遍的なものかを調べるために、解析領域を拡張し、他の氷河についても調べている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「だいち」の運用が2011年に停止したことでその後のLバンドSARデータの蓄積が滞っているが,XバンドのTerraSAR-Xデータの利用や「だいち」のSARデータでも未だに詳細に解析されていないデータがあるので,データ解析面は順調に進展している.数値モデル開発については,冬期加速という新しい現象に遭遇したことで,未知の物理過程をどうモデリングするかについて検討する必要が生じている.
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今後の研究の推進方策 |
一つは、流動速度の時空間分布データを、空間的にも時間的にもさらに拡充することである。そのために、これまでに調査した領域を時間方向に拡充する以外に、研究対象領域として北極圏や西クンルン山脈以外のアジア高山域にも注目していきたい。衛星データについては、取得済みのアーカイブデータについては出来るだけ利用していく一方、新規に衛星観測データを取得することも必要である。4月に打ち上がった欧州のSentinel-1や5月末に打ち上げ予定のALOS2のデータが,今年度中には利用できるようになる見込みであり,随時データ処理をすすめる。 二つ目は、数値モデルの構築である。とりわけ、ユーコン/アラスカ域で見いだした冬期加速を引き起こす素過程として氷河内部及び底部の水理環境の時間発展モデルの開発に取り組みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費にかかる費用が当初の予定よりも少なかったため. 今年度の物品費か英文校閲の費用として使用する予定である。
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