研究実績の概要 |
「氷河サージ」とは氷河の流動速度が平時に比べて数倍から数10倍以上も上昇して氷河末端が急速に前進する現象である.しかし数十年からそれ以上に一度の頻度で発生する稀な現象であり,現場観測の難しさもあって氷河サージの時間発展データは乏しく,発生メカニズムは氷河学上の未解決問題の一つである.本研究では,人工衛星搭載の合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar,SAR)データを利用して,表面流動速度を高頻度に測定し「氷河サージ」の時空間的発展を元に発生メカニズムを明らかにすることを目的とする. 西クンルン山脈の氷河は,Yasuda and Furuya (2013)で見いだした氷河サージがその後どのように進行しているかを,ドイツのSAR衛星TerraSAR-Xのデータに基づいて調べ,現在もなお進行中であることが分かったが,さらに興味深いことに,サージが進行中の氷河においても顕著な季節変動が見られ,それも夏場ではなく,秋から冬に最も流速が速くなることが判明した.これは亜寒冷型氷河のサージにおいても表面融解水の寄与が確実にあって,氷河内部に一時的に水が滞留していることを示す証拠であり,亜寒冷型氷河における従来のサージ発生メカニズムに対して修正を迫るものである(Yasuda and Furuya, 投稿中). ユーコン州やアラスカの山岳氷河は,従来から氷河サージが冬期に開始することが経験的に知られていた.前年度の研究から,サージしていない静穏期においても冬期に加速しており、しかも表面融解水が無いはずの上流から下流へ向かって伝搬する様子が捉えられた(Abe and Furuya, 投稿中).この事実がどの程度普遍的なものかを調べるために、解析領域を拡張し、他の氷河についても調べている.
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