研究課題/領域番号 |
24651009
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
奥田 哲士 広島大学, 環境安全センター, 助教 (60343290)
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研究分担者 |
早川 慎二郎 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80222222)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 蛍光X線分析 / 定量分析 / 散乱X線 / 珊瑚 / 汚染履歴 / 鉛 / 重金属 / 河川水 |
研究概要 |
「蛍光X線分析装置の制作と重金属の定量下限・空間分解能の向上」に関しては、20 μmの空間分解能を持つ微小部蛍光X線分析装置を用いて、局所的な蛍光X線定量分析について検討を行った。定量分析を行うためには試料内部での蛍光X線の減衰(吸収効果)とビーム照射領域の局所的な試料厚さに関する情報が必要であるため、散乱X線による評価と透過X線強度による評価について検討した。透過X線強度による吸収効果の評価では単色X線を用いる必要があるため透過光を結晶で分光する機構を新規に作成した。炭酸カルシウム粉末をペレット化したものやガラス試料について定量分析についての検討を進めると共に、薄片化したサンゴに濃度既知のPb溶液をスポット的に滴下した試料を作成し、蛍光X線イメージングおよび局所的なPbについての蛍光X線分析を行った。 「測定対象珊瑚の選定と採取」に関しては、ドミニカ共和国のサントドミンゴ自治大学(UASD)の協力の下、対象とした汚染地域であるHaina川河口に生息する珊瑚を採取および日本へ送付した。日本に移送後、塊状の珊瑚を成長方向に板状に切り出して蛍光X線分析用のサンプルを作成できた。 研究目的である週単位の鉛濃度の変化の追跡が可能かを判断するため、珊瑚の成長や生育環境に関する知見を国内の珊瑚成育地域で調査を行ない把握した。さらに現地資料とは別に、人工海水中で珊瑚の育成(人工汚染珊瑚サンプル)と鉛曝露試験を開始した。鉛の曝露は定期的に一週間のみ、日本の環境基準前後の鉛濃度に増加させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた「微小部でのX線透過率測定」のために行うとしてた「深さ方向分解能」について、小型の回転ステージを購入し、平板結晶で分散させる方式の分光器を開発することができた。標準試料について組成から予想される透過率が得られており、組成未知の試料について局所的な厚さの評価に利用できる。また薄片化したサンゴ試料についても20 μmの空間分解能でCaやSrなどの元素について蛍光X線イメージングが実現しており、スポット滴下したPbについての分布像や蛍光X線スペクトルが得られている。「空気吸収の影響を受ける元素についての高感度化」については、対象元素の測定データは得たが高感度化の評価には至らなかった。一方、サンゴ骨格の粗密が蛍光X線強度に大きな影響を与えることが明らかとなり、検出器側の試料エッジ部分で蛍光X線強度が増大する効果(エッジ効果)なども確認された。定量分析を行うためには試料形状の影響などを検討する必要があることも明らかになった。 計画していた「重金属汚染が確認されておりかつその履歴がわかっている河口域の珊瑚サンプル」については、2013年2月にドミニカ共和国の汚染地域であるHaina川河口を船からのスクーバダイビングにて調査し、河口から数百mのところで数種の大型珊瑚を発見できた。予定していたMonteastrea annularisも発見でき、大きさも予定していた30 cm程度のものを入手できた。現地ではサンプリングのみを行ない、蛍光X線分析用のサンプルは、日本に移送後、塊状の珊瑚を成長方向に板状に切り出し、サンプルを作成できた。ここでは研究目的である週単位の鉛濃度の変化の追跡が可能かの判断のための追加的処置として、水槽中、人工海水で珊瑚(キクメイシ)の培養を開始した。定期的に一週間のみ、鉛を日本の環境基準前後の濃度に増加させて、人工サンプルの作成を開始できた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目に計画していた「珊瑚骨格中の金属含有量のマッピング」について、サンゴ中のPbの濃度分布を正確に算出するためには試料の形状効果や粗密などの影響を考慮した定量分析が必要であり、形状効果を評価するために複数の検出器の利用と、共焦点配置の利用について検討を行う。入射側だけでなく、蛍光X線の検出にもポリキャピラリーレンズを用いることで、分析する試料体積を限定することができるため形状効果の影響が抑えられると考えられる。内部の真空排気が可能なポリキャピラリーレンズ(XOS、保有)を半導体検出器(既存)の前段に取り付け、共焦点配置の顕微鏡に改良を行う。これにより既存の装置と比べて深さ方向分解能(3次元分析)の実現を行うと共に、初年度に行うとしていたBa(Lα線検出)など空気吸収の影響を受ける元素についての高感度化をめざす。 二年目には「降雨等気象条件や河川流量に応じた重金属の流出挙動の予測と分析結果の比較」と「重金属以外の河川由来物質の測定結果との比較と将来予測手法の確立」も行うとしていたが、前者については上の測定結果と調査対象としたHaina川河口付近のバッテリー工場の操業履歴、近隣住民の健康被害の記録との比較を行う。これにより、本開発法による重金属の数日単位での精密分析を評価する。ここではさらに、他の研究等において行われている実際のHaina川河川水中の重金属濃度の測定結果との比較や、河川流量の増加に伴う汚染土壌の河川への流入や河川中の汚染底質の巻き上げに伴う海域への重金属負荷量を解析する。後者については、陸水中と海水中で濃度が大きく異なるBaやSiを陸水マーカーとしてあわせて測定することで、サンゴ骨格から降雨イベント、有害物質を含む陸水の混合割合の再現に挑戦し、気象条件と海域への有害物質負荷の関係の解明まで進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の減額による二年目の分析消耗品およびドミニカへの渡航費用の不足が起こらないように、一年目に購入を予定していたポリキャピラリーレンズを他予算で準備するなどして確保した。よって二年目は、当初の予定通り、分析に必要な消耗品である薬品類やガス類、ドミニカへの渡航費用に研究費を使用する。
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