研究概要 |
大陸氷床の出現・発達期における北大西洋海域の表層水塊構造の気候変動を,ミレニアムスケールで解析する新化学指標を確立するため,同海域で掘削されたIODP Site U1308の堆積物(過去100 万年間,20~30cm間隔,220試料)のオービタルスケールとIODP Site U1314の250万年前-255万年前(MIS 99-101)の堆積物(5万年間,2cm間隔,250試料)のミレニアムスケールでの水銀量の気候変動とそのメカニズムを比較研究した。 その結果,過去100万年間では,ミランコビッチ周期の10万年と4.1万年の周期と,後者5万年間では,約3千年と5千年のミレニアム周期を持つ次の共通な変動関係,1)水銀含有量と総有機炭素量(TOC)とこの海域に流出した漂流岩屑(IRD)量の正相関, 2)ナンノプランクトンの上部透光帯種の化石数とTOC量の逆相関,および3)TOC量と有機炭素同位体比の逆相関,が得られた。また,MIS 99-101の5万年間のこれらの化学量変化は,堆積物の帯磁率の変化に対応し,水銀量変動解析に有効であることが明らかになった。この研究の意義は,過去100万年間と出現・発達期の両期間で,同様な“同海域にIRDと水銀を含んだ氷山が,気候変動に伴って周期的に流出・融解し,この時増加した海洋水銀が,植物プランクトンの下部透光帯種により消費・有機水銀化され堆積したメカニズム”を提唱できる点にある。さらに,ガウスー松山地磁気逆転境界付近(258-262万年前)では,上記化学量の変動幅が小さく,ナンノプランクトン群集と鉱物組成が異なることも予察できた。従って,この海洋水銀の集積・堆積メカニズムは,北大西洋のオービタルスケールからミレニアムスケールの堆積水銀量解析に普遍化でき,この水銀量変動が氷床拡大縮小現象の化学指標となることを示した点に重要性がある。
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