南極では、氷中から硝酸イオンが消失しているという報告があり、その可能性として、揮散と光分解、化学反応が考えられる。本研究では、雪氷表面から放出される気体の測定と放出メカニズムの解明を行った。まず、硝酸を含む雪に光を当てると、NOxが生成されるのを観測した。これはすでに報告にあるとおりであるが、それ以外にも、長期間では硝酸の揮散も起こりうることを見出した。これは、雪の中の温度勾配により、高温側から低温側に水蒸気が移動することに伴い、高濃度となり、揮散が起こることがわかった。この結果は、南極の夏期だけではなく、冬期にも硝酸が消失している可能性が示唆された。NOxの放出は南極大気の光化学への影響が考えられ、硝酸ガスの放出はエアロゾル組成に影響を与えることが考えられる。一方塩化物イオンは光反応は起こらず、揮散だけが起こることがわかった。塩化物イオンは何らかの反応が起こるような強い紫外線はないためである。また、アンモニアも同様に揮散する現象が見られたが、これはまだ十分検証できておらず、今後更なる実験が必要である。アンモニアガスの放出はエアロゾル生成に大きな影響を与えるため、重要な課題となる。 一方、偶然、硝酸とヨウ化物イオンの化学反応の可能性を見出したが、再現性が十分おりいる可能性があり、今後も続けて研究を続けることが必要である。 上記の研究を実試料を用いて行う過程で、雪試料の不均一性が問題となった。本研究で、土壌の均一化法に似た方法により、ある面内の雪試料を均一化することに成功した。この方法を用い、本年南極でこの研究成果を確かめる実験を行う予定である。
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