研究課題/領域番号 |
24651025
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井原 賢 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (70450202)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 薬剤耐性遺伝子 / 次世代シーケンサー / 下水 |
研究概要 |
今年度は、まず初めに、次世代シーケンサーでのバクテリアゲノムの網羅的解析の系の立ち上げを行った。近畿地方のA処理場において流入下水、初沈汚泥、初沈越流水、活性汚泥、二次処理水、放流水のサンプリングを実施し、これらのサンプルから回収したバクテリアゲノムを用いて網羅的解析の系を立ち上げに取り組んだ。その結果、回収したバクテリアゲノムDNAからライブラリーを調整し、次世代シーケンサーMiSeqによって遺伝子配列を網羅的に解読することに成功した。また、得られた配列データを一般に公開されている解析サーバーを用いてデータベース照合するとことで、annotationを付けることが可能であることを確認した。以上の結果、「下水試料からのバクテリアゲノムの回収」、「次世代シーケンサーの運用」、「配列データの意味付け」の一連の解析を実行する系を立ち上げることに成功した。 次世代シーケンサーの配列データから、下水処理場内において生物処理の前後で微生物の群集構造が大きく異なる、という情報を得た。流入下水には腸内細菌が多く含まれ、ヒトの糞便の影響が大きいことが確認できた。初沈汚泥や初沈越流水も流入下水と似た群集構造であった。これに対して、活性汚泥の群集構造は腸内細菌のように嫌気性の細菌が少なく好気性の細菌が多いことが分かった。好気的な生物処理が糞便由来の微生物の除去に効果的であることが分かった。また、次世代シーケンサーの配列データに含まれる薬剤耐性遺伝子を検索した結果、流入下水由来のバクテリアから多種の薬剤耐性遺伝子が検出されることを確認した。さらに、腸内細菌同様に、薬剤耐性遺伝子の種類も下水処理を経るごとに減少する傾向を確認した。 今年度はその他に薬剤耐性遺伝子を特異的の増幅するプライマー400種類を合成た。淀川流域でのサンプリングも実施した。今後薬剤耐性遺伝子の流域での存在実態を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シーケンサーによって複数サンプルのバクテリアゲノムの網羅的解析を行う系の立ち上げに成功した。前処理の検討については、バクテリア回収段階でろ過を行うことでウイルス由来のゲノムの混入を排除し、バクテリアゲノムを濃縮して配列を解読することに成功している。また、得られたデータの解析については一般に公開されている解析サーバーを活用することで、配列の照合を行うことが可能であることを確認した。薬剤耐性遺伝子についてもGene bankに登録されている配列であればサンプルに含まれていた耐性遺伝子の種類と数を把握することが可能であった。 薬剤耐性遺伝子にターゲットを絞って遺伝子配列を網羅的に解読する系の立ち上げも順調に進んでいる。文献を参考に、約200種類の耐性遺伝子を選定し、PCRプライマーを作成した。さらに、下水サンプルから回収したバクテリアゲノムをテンプレートにし、これらのプライマーを用いてのマルチプレックスPCRを行い、想定されるサイズのバンドに増幅がみられることも確認している。 近畿地方の複数の下水処理場の放流水のサンプリングを行った。また、淀川流域でのサンプリングも実施した。バクテリアの回収、バクテリアゲノムの回収まで行っている。次年度に薬剤耐性遺伝子のマルチプレックスPCRを行い、流域規模での薬剤耐性遺伝子の存在実態、下水処理場が水環境に与えるインパクトの解明を行う準備が整った。 以上、当初の計画に対して計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に準備した薬剤耐性遺伝子のプライマー400種類を用いて、薬剤耐性遺伝子200種類の有無を次世代シーケンサーの一度のランで判定する系の確立を行う。この系をもちいて、前年度に採集した淀川水系の下水放流水と放流先の河川水および今年度に採集するサンプルについて、薬剤耐性遺伝子の網羅的解析を行う。関連する下水処理場の流入下水についても薬剤耐性遺伝子の存在量を調べことで、下水処理場への薬剤耐性遺伝子の流入の実態、処理場から環境中への拡散の実態を明らかにする。さらに、今年度は、薬剤耐性遺伝子の解析と併せて16SrRNAを用いたメタゲノム解析も併せて実施することでバクテリア種の変化の視点からも下水処理場が環境中に及ぼすインパクトにつうて検討する予定である。薬剤耐性遺伝子とバクテリア種の両方の視点からデータをえることで、下水処理場が環境へ与えるインパクトについてより確かな情報が得られると期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次世代シーケンサーの前処理の試薬には4か月という使用期限が定められている。しかしながら、1年間実際に次世代シーケンサーを使用して得られた情報から、試薬は作成されてからの日数が短ければ短い程、クオリティーの高いデータが得られるということがわかった。今年度に収集したサンプル分の試薬は今年度の予算の中から年度内に購入予定であったが、サンプルの前処理が終わった後に、直ちにシーケンサーのランが出来る状況で試薬を購入した方が良いと判断し、該当する商品の1つの購入を次年度に延期した。この結果、「次年度使用額」が生じた。 翌年度の研究費使用計画は以下の通りである。下水処理場放流水と、放流先水域でのサンプリングを引き続き行い、薬剤耐性遺伝子の網羅的解析を行う。これによって下水処理場が薬剤耐性遺伝子の観点から流域に及ぼすインパクトの大きさを明らかにする。次世代シーケンサーのためのライブラリー作成等の前処理、シーケンサーのランの試薬等の消耗品に使用予定である。調査の際のレンタカー代や、学生アルバイトの人件費としても使用予定である。 また、成果を発表するために国内外の学会へも参加を予定しており、学会参加費としても使用予定である。
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