今年度は、まず初めに次世代シーケンサーを用いての薬剤耐性遺伝子の網羅的な検出系を構築した。下水サンプルから回収したバクテリアゲノムに対して、192種類の薬剤耐性遺伝子に対するプライアーを加えてPCR反応を行いライブラリーを作成した。濃度調整の後、次世代シーケンサーMiSeqによってPCR産物の遺伝子配列を網羅的に解読することに成功した。また、得られた配列データを既知の配列と比較することで、ターゲットとしていた192種類の薬剤耐性遺伝子がどれくらい検出されたのかを把握することができた。 薬剤耐性遺伝子の網羅的検出系と、前年度に確立した16S rRNAを用いたバクテリアの群集構造解析系を下水サンプルへ適用し、下水処理場内での薬剤耐性遺伝子の種類と数の変化、およびバクテリア群集構造の変化を調べた。具体的には近畿地方のA処理場において採取した流入下水、初沈汚泥、初沈越流水、活性汚泥、二次処理水、放流水について調べた。その結果、薬剤耐性遺伝子の種類と数が減少していることが確認できた。流入下水では115種類の薬剤耐性遺伝子が検出されたが、二次処理水では91種類に減少していた。このように、下水処理過程での薬剤耐性遺伝子の減少は確認できたが、その一方で放流水からも95種類の薬剤耐性遺伝子が検出されており、下水処理場から環境中へ遺伝子情報が拡散している可能性が危惧された。バクテリア群集構造の解析結果からは、下水処理場内において生物処理の前後で微生物の群集構造が大きく異なるという情報を得た。流入下水には腸内細菌科が多く含まれ、ヒトの糞便の影響が大きいことが窺われるが、二次処理水では腸内細菌科やバクテロイデス科の割合は大きく減少していた。薬剤耐性遺伝子の減少はこれらのバクテリアの減少と関連がある可能性が考えられる。
|