1990年代、東アフリカ高地ではマラリア流行が頻繁に起こっていたが原因について科学的には明らかにされてこなかった。1999年にインド洋熱帯域の海面水温の異常変動「インド洋ダイポールモード現象」が発見され、東アフリカ地域に多雨をもたらすことが明らかとなった。我々は、インド洋ダイポールモード現象が同地域にもたらした多雨が1990年代のマラリア流行に深く関わっていると考え、ケニア西部の高地および隣接するビクトリア湖周辺の平坦地における過去15-75年間にわたるマラリア患者数のデータを収集し、インド洋ダイポールモード現象の指標であるダイポールモード指数およびエルニーニョ指数との関連を時系列解析法を用いて検討した。その結果、高地では1990年代にマラリア患者数とダイポールモード指数との相関が高く、インド洋ダイポールモード現象がマラリア流行に影響を及ぼしたと考えられた。一方、ビクトリア湖周辺の平坦地においてはマラリア患者数とダイポールモード指数との相関は明らかでなかった。インド洋から運ばれる湿った大気が高地の降雨量に影響を及ぼし、マラリア媒介蚊の発生に関与していると考えられた。これまで1990年代の高地マラリア再流行は、薬剤耐性や土地利用変化、人口移動、エルニーニョ現象、温暖化などが原因と言われてきたが、本研究によりインド洋ダイポールモード現象が関与していることが証明された。今後、タイミングを逸せず効果的なマラリア流行対策をおこなうための早期警戒システムの構築や、気候変動によるマラリア流行動態の将来予測に向けた研究が望まれる。
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