研究課題/領域番号 |
24651030
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
中根 一朗 神奈川工科大学, 工学部, 講師 (30221451)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 花粉症 / 空中花粉 / 花粉の再浮遊 / 花粉曝露 / 都市キャノピー層 / 大気流動 / 固気二相流 / 数値シミュレーション |
研究概要 |
都市化(路面舗装,人工熱消費,高層ビル等)は,キャノピー層内の大気流動を閉じた状態にし,しかも同層内での気流輸送を活発にしている.従って,同層内では,花粉の再浮遊(2次飛散)の促進と停留的な再循環が予測される.そこで,花粉の2次飛散の影響を明確にするとともに,都市における花粉の体内侵入量を予測することを目的として,H24年度は以下を実施した. 1.花粉2次飛散量計測システムの作製と計測:このシステムは,計測地点の都市キャノピー層内における高度毎の花粉量を計測するものであり,高さ16m強の10階建て計測用タワー内に,5台の小型吸引式花粉捕集器,8台のダーラム型花粉捕集器を設置している.またこのため,計測タワーの設計・設置,あわせて13台の花粉捕集器の設計・製作,花粉数を自動カウントするシステムの作製を行うとともに,このシステムによる計測を開始した.そしてこれより,生活圏内における2次飛散の影響の明確になることが期待される. 2.人体侵入花粉量予測手法の評価:現在,単純な花粉の飛散挙動は,オイラー・オイラー法による数値計算で予測している.そこで,この手法による人体侵入花粉量の予測精度を確認するため,モデル実験と同条件の計算を行い,この手法を評価した.またこれに関連し,複雑形状物体に対して直交する境界適合曲線座標系を生成する手法を開発した.なお,いずれの手法においても良好な結果を得ており,人体侵入量予測に関して目処を付けた. 3.花粉の再浮遊モデル評価用実験:現在,花粉の再浮遊挙動を予測する数理モデルを作製中である.しかしながら,再浮遊モデルを評価するための実験はほぼ予定通りに進行し,粗面壁境界層,ステップを過ぎる流れ,角柱後流の各場合における再浮遊挙動の計測を終えている.また,この結果より,角柱後流の場合に再浮遊が促進され,角柱高さの2倍程度まで疑似花粉が再浮遊することが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究実績の概要】に記した通り,H24年度中に実施予定の内容は,進捗度の差があるものの一通り行った.そこで,前記した実施内容1~3の各々の進捗状況(達成度)を以下に評価する. 1.花粉2次飛散量計測システムの作製と計測に関して:花粉の場合,飛散時期が限定されていることから,交付申請書記載の計画を若干変更してこの部分を前倒しして進め,H24年度内に花粉計測システムをほぼ完成させ,花粉量計測を開始した.なお,予算の不足のため,超音波流速計の購入がH25年度になったことから,気流をモニターするシステムも完成し,全ての計測装置の設置が完了するのはH25年度5月である.ただし,H24年度中に実施する当初計画内容は,計測システムの検討・作製であり,花粉量の計測はH25年度の年度末に実施する予定であった.従って,この部分に関しては,予定に比べて進んでいると評価できる.また,交付申請書には,高度毎の計測に気球を使用する計画である旨を記載していた.しかしながら,計測の正確性と容易さ,さらに,都市キャノピー層の高度を考慮した結果,20m程度の計測用タワーをレンタルして設置することの方がより良いと判断し,そのように変更している. 2.人体侵入花粉量を予測する数値計算手法に関して:予定通りに進み,人体侵入量予測に目処を付けた.これに加え,直交境界適合曲線座標系生成手法も開発した.従って,この部分は予定通りであると評価できる. 3.花粉の再浮遊モデルに関して:再浮遊モデルを評価するための実験は,ほぼ予定通りに進んだが,本来,H24年度において最重要視していた再浮遊モデルの作製が思うように進行していない.なお,これに関しては,上記1の部分に予定以上の時間を割いたことが主因であることから致し方ないものであるが,この部分が当初予定に比べて遅れているため,総合的にも“やや遅れている”と評価せざるを得ない.
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今後の研究の推進方策 |
H25年度に実施予定の内容を項目に分類すると,やはり,【研究実績の概要】に記したものとほぼ同じとなる.そこで,この1~3の各々に関し,その具体的計画を以下に記す. 1.花粉の2次飛散量の計測に関して:既に花粉量の計測を始めており,引き続き継続する.これは,現在も,計測地におけるスギ花粉飛散が終息していないことと,2次飛散を考えた場合,飛散終息後も数日の計測を実施すべきと判断しているためである.ただし,現在の飛散量が少ないことから,小型吸引式花粉捕集器による細かい時間毎の計測は行わず,ダーラム型花粉捕集器による日積算量だけを計測している.なお,時間毎の花粉量に関しては,来春に再度実施する予定である.また,前記した通り,H25年度始めに超音波流速計等を購入することで,気流をモニターするシステムが完成する. 2.人体侵入花粉量の予測に関して:既に完成しているステレオ画像計測システムを用いて人体の3次元測定を行うことで,人体形状の数値モデルを完成させ,数値シミュレーションを実施する.なお,この際の格子生成においては,やはり既に完成している直交境界適合曲線座標系生成手法を適用する. 3.花粉の再浮遊モデルの作製に関して:現在作製中の花粉の再浮遊モデルを既に完成している花粉の飛散モデルに組入れ,再浮遊を含む花粉飛散予測プログラムを完成させる.なお,実際の計算対象となる都市モデルにおいては,2種類のモデルを作製する予定である.一つ目は,ヒートアイランド現象を予測するために作製したモデルを改良する大規模な大気循環を計算するための大局的なモデルである.そして二つ目は,この大局的なモデルにより計算された気流を基に,特徴的な地点での花粉の体内侵入量を計算・予測する詳細なモデルである.なお,都市モデル計算に必要な気流速,温度等の初期・境界条件は,前記した高さ毎の花粉量と同時に計測する.
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度の研究費は,主に,花粉2次飛散量計測システムの機能拡張と整備にあてられる.具体的には,前記した通りに,数台の超音波流速計を購入するとともに,これに関わるデータロガー,電源装置等を購入する予定である.またこれに加え,花粉計測用タワーのH25年度のレンタル費用等も,H25年度研究費より支出する予定である. ここで,このように,花粉計測用タワーの充実・維持に予算の大半を割く主たる理由は,次の通りである. 一般に,樹木系花粉の飛散量は,高度0~20m程度では変わらないとされている.しかしながら,我々のこれまでの研究より,スギ花粉を含む空気力学径40μm程度以下の粒子は,この高度を含む都市キャノピー層内において,数m以下程度の再浮遊することが予測されており,この花粉計測用タワーによる計測から,人の生活範囲内での花粉の2次飛散の影響を明確にできる.また,これに加え,計測用タワーにより得られる都市キャノピー層内の高さ毎の気流等の気象データは,それ自体が都市型気候検討において意義の有るものと考えられる. なお,花粉計測用タワーの設置費用やレンタル費用に関しては,物品購入とならないとの判断から,H24年度もH25年度も“直接経費・その他”に分類している.また,前記した通りに,交付申請の段階においては,気球を購入して高度毎の計測を実施する計画であったが,これをレンタルのタワーに置き換えた.このため,H24年度においては,交付申請書に比べて物品費が減り,その他が増えることとなった.
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