研究課題
東日本大震災による甚大な津波被害を受けた岩手県大槌町では、その復興に向けて湧水を生かした町づくりが検討されている。この検討案に貢献するため、連携研究者の鷲見准教授が中心になって5月19日に実施した地下水位一斉測定に、申請者がこれまで地下水研究を実施してきた愛媛県西条市、山形県遊佐町の職員らも参加して、湧水研究ネットワークの強化を図った。大槌町において水質マップ作りを紹介した結果、大槌町からの研究支援を受けることになり、本研究と連動して、25年5月に大槌町の地下水を、8月に大槌湾流域全体の河川水を採水した。合計300ほどの水試料に対して50成分の濃度および水素、酸素、ストロンチウムの安定同位体分析を行った。得られた結果を水質マップとして表現した結果、(1)大槌川、小鎚川のほか、北部の城山からの地下水が流入していること、(2)これら3涵養域の識別にストロンチウム同位体比が有効であること、(3)重金属汚染や窒素汚染もうけていない良質な地下水であること、さらに(4)津波後3年経過した現在、地下水への塩水化影響は見られず流速が早いことなどが明らかとなった。これらの成果を、2月8日に大槌町で開催した湧水シンポジウムで発表し、参加した遊佐町や福井県大野市の職員、東久留米の湧水関係者、リバーフロント研究者らと、町づくりに向けた問題点などに関する情報交換がなされた。西条市では、それまでの研究成果を市長および市議会に報告し、条例制定などに向けた対策が講じられることになった。本研究を介して、平成25年度の日本水大賞に輝いた大野市からも市民を巻き込んだ水質マップ作成に向けた要請があり、本研究が目指した水質診断ネットワークの構築とそれを介した大槌町震災復興の実現可能性は着実に進展したと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は、津波被害を受けた大槌町の河川水や地下水を中心に、(1)多くの水質項目を調べることで地下水研究を進展させると共に、研究成果を基に (2)湧水・地下水を介した街づくりネットワーク化の可能性を探ることにある。(1)については、大槌湾流域全体および大槌町地下水全体の水質マップを完成できた。これにより、地下水の涵養域と流動系を世界的にみても最も高精度に明らかにできたと考えている。とくに水同位体と共に、塩素や臭素などの陰イオンさらにストロンチウム同位体が涵養域のトレーサーとして利用できることは新発見であると同時に、同地域の地下水の流動速度が速い事を示している。(2)については、大槌町、遊佐町、西条市のネットワーク化が着実に強化されつつあると同時に、大野市では市民教育という視点で水質マップ化が検討されており、新たな研究の萌芽となっている。
昨年度の研究により、大槌町の水試料はほぼ100%に近く採取できた。終了していない一部試料の分析を実施すると共に、研究成果の展開に向けて、他地域と比較を進めながら、学術論文としてまとめる。さらに本研究を通して湧水水質研究のネットワークが図られきた地域の連携を強化し、統合的な湧水条例の基盤作りに向けて、新学術領域など新たな研究申請に向けた活動を実施する。
25年度に試料採取は完了し、水同位体、ストロンチウム同位体、主要元素、微量元素の分析を完了した。しかし分析データの再検討が必要な試料が存在する。このため分析費およびそのための謝金が必要になった。また成果発表および論文作成の英文校閲などに経費が発生した。分析費と謝金成果発表および英文校閲、論文別刷費
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