生物多様性やその進化的固有性を保全する場合、保護区の地理的配置は重要である。一方、保護区設置は人為活動の制限を伴うため、社会経済的コストとなる。よって、保護区配置による生物多様性保全は、限られたコストの下で、保全効率を最大化することが要求される。具体的には、保護区の総面積が条件となり、その条件下で保護区に包含される生物多様性を最大化する保護区配置を検討することになる。 本研究では、日本の維管束植物を材料とし以下のデータを整備した。日本産植物全種について分布情報を収集し、種多様性の地理的パターンを地図化した。植物種の系統情報を既存文献から収集し、日本に分布する植物種のメガ系統樹を構築した。国・地方自治体が設置している保護区の規制状況、保護区の地理分布を地図化した。 これらのデータを統合して以下を分析した。1)日本産維管束植物の保全重要地の検討:現状の保護区で保全されていない種の分布は西日本に偏り、とくに琉球諸島に多かった。さらに、全ての植物種を保全するために必要となる最小保護区セットを解析した。保全上の重要地として選ばれた地域は、低緯度の都道府県、特に沖縄県だった。2)種の進化的固有性を考慮した自然保護区の配置分析:最も規制の厳しい保護区では、保護区と標高、国有林率、進化的固有度に正の相関があった。次に規制の厳しいレベルでは、それらに加え、緯度、人口と負の相関があった。最も規制の緩いレベルでは、保護区と標高に正の相関があった。保護区配置と種数には相関がなかった。 以上より、現状の保護区配置には、種多様性やその進化的固有性の地理的パターンは十分に反映されておらず、むしろ、地理的・社会的要因の効果が反映されていることが判明した。特に、琉球諸島や沖縄県には、現状では保全されていない植物種が多く分布し、保全上重要な地域で、緊急かつ効果的な保護区設置計画が必要なことが明らかとなった。
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