研究課題/領域番号 |
24651042
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
三浦 富智 弘前大学, 保健学研究科, 准教授 (20261456)
|
研究分担者 |
葛西 宏介 弘前大学, 保健学研究科, 助教 (50400148)
吉田 光明 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 教授 (60182789)
中田 章史 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 助教 (70415420)
|
キーワード | バイオマーカー / メタボローム / 被ばく医療 / 線量評価 |
研究概要 |
被ばく線量評価法のコールドスタンダードである二動原体染色体(DIC)法や,血清中バイオマーカーでは解析に時間を要することや経時的変化が著しいなどの課題がある。本研究では,四重極・飛行時間型質量分析計(Q-TF/MS)を用いて,ヒト末梢血リンパ球ex vivo被ばくモデルにおけるメタボロミクスを行い,既存の評価法が抱える問題点を解決する線量評価バイオマーカーの探索を行った。 インフォームドコンセントの得られたボランティア8名より採取した末梢血に5Gy(1.0Gy/min)のX線を照射し,分離リンパ球をPHA刺激下で培養した。培養0, 24, 48時間後に試料を回収し,高極性カラムを用いて四重極・飛行時間型質量分析計(Q-TOF/MS/MS)により培養上清および細胞抽出液中の代謝物を網羅的に分析し,さらにMarker View(AB SCIEX)による主成分分析(PCA)を行った。 培養上清の測定では,positive modeにおいて培養時間の経時的変化およびX線照射群と非照射群においてグルーピングが可能であった。本解析により,被ばく線量評価マーカー候補として複数の代謝物が検出され,代謝物A(m/z 112.1; RT 5.1min),代謝物B(m/z 437.2; RT 1.0 min),代謝物C(m/z 415.2; RT 1.0 min)が24時間培養と48時間培養の双方で共通に認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
BEH HILICカラムを用いた測定・解析のうち,細胞抽出液において0時間培養対24時間培養および0時間培養対48時間培養のscores plotにおいて培養時間およびX線照射の有無によるグルーピングが可能であり,loadings plotからはグルーピングに寄与する複数のメタボライトが確認できた。したがって,細胞抽出液についてはnegative modeによる測定および解析が有用である可能性がある。一方で,培養上清ではpositive modeにおいて培養時間(0, 24, 48 h)およびX線照射群および非照射群との間でグルーピングが確認できた。さらに,0時間培養対24時間培養および0時間培養対48時間培養のscores plotでも培養時間およびX線照射の有無により,グルーピングおよびそれに寄与する複数のメタボライトが確認できた。また,今回の解析で分子式まで推定できたメタボライトのほとんどが溶出時間初期のものであった。また,培養上清中の候補物質は陽イオン化しやすいこと,並びに低極性物質またはBEH HILICと低親和性の物質である可能性が示唆された。既知のバイオマーカーとして知られている核酸代謝物やDNA修復に関する分子などの多くは高極性物質であり,今回の培養上清の結果とは異なるものとなった。 本研究を遂行するにあたり,問題点がいくつか浮かび上がった。一つは再現性の確保である。この問題については昨年度の研究から指摘されており,今回も一度の解析で1サンプルにつき3回測定を行ったが,測定回数ごとの検出感度が安定せず,再現性に不安が残った。これは連続測定によるQ-TOF/MSの感度低下が一番の原因であると考えられた。そこで,本研究では内部標準物質としてChlorpropamideを細胞抽出液および培養上清に添加し,得られたm/zとRetention timeのデータから標準化を行ってPCAによる解析を行ったが,標準化による感度の安定化は見られず,scores plotではむしろグルーピングが悪くなる場合もあった。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒト末梢血リンパ球ex vivo被ばくモデルを用いたメタボローム解析において、X線照射の有無により,グルーピングおよびそれに寄与する複数のメタボライトが確認できたがX線照射後の急性応答を解析している可能性が非常に高い。被ばく後数日間経過した末梢血を採取することが望ましいが、ヒト材料を用いたモデルでは困難となる。放射線治療後の患者さんより血液を提供していただくことも可能であるが、放射線治療の多くは部分照射であるため、被ばくリンパ球と非被ばくリンパ球が混在することとなる。 そこで、平成26年度はマウス照射モデルを用いた同様の解析を実施する。マウスモデルでは照射後の急性炎症を伴うステージや、初期炎症が終息したステージでの比較が可能となる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
バイオマーカー候補物質の特定が完了していないため、簡易検査キット開発のための分担金が執行されていない。 マウスモデルで決定したバイオマーカーの簡易検査キット開発に着手し、予算を確実に執行する。
|