研究課題/領域番号 |
24651053
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
友澤 森彦 慶應義塾大学, 法学部, 助教 (80581868)
|
研究分担者 |
佐藤 淳 福山大学, 生命工学部, 講師 (80399162)
坂本 信介 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 研究員 (80611368)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 環境放射線影響 / アカネズミ / 環境モニタリング / 集団遺伝学 / ミトコンドリアDNA |
研究概要 |
福島第一原子力発電所の事故以降、環境中に放出された放射性物質の生態系に対する影響は日本および国際社会の重大な関心事であるが,低線量の放射線の遺伝的影響やその野外におけるモニタリング方法については未解明の部分が多い.本研究では事故によって環境中に放出された放射性物質が野生哺乳類の集団に対してどのような影響を与えるかを,アカネズミ(Apodemus speciosus)を材料に生態・遺伝的側面から多角的に評価し,有効なモニタリング方法を確立する事を目的としている. 平成24年度は汚染地域3地点および非汚染地域2地点で野生ネズミ(全150個体)を採集し,外部形態計測および解剖の後,筋肉および骨における放射性セシウムの体内蓄積量を測定した.同時にこれらの個体の頭部骨格標本を作製し,臼歯摩耗度から月齢の推定を行った.その結果放射性セシウムの蓄積量は同じ調査地内でも個体によって大きなばらつきが見られ,捕獲地点における空間線量や個体の月齢と体内蓄積量に有意な相関が見られた.尿中の8-OHdG濃度の測定を行った結果,1ペアの調査地間において有意な差が検出されたが,放射性セシウム蓄積量および空間線量との関連は今のところ見られていない.さらに全ての捕獲個体について肝臓および脾臓組織片からDNAを抽出し,ミトコンドリアDNAの塩基配列多型を調査したが,現在のところ汚染度の異なる調査地間での有意な差は見られていない.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サンプリングおよび放射能濃度測定,生態学的および遺伝学的な影響評価などの本研究の軸となる基本的な項目については順調に進展している.しかしながら予定していたいくつかの項目については現地の状況や当該年のサンプリング地点におけるアカネズミ個体数の減少から必要サンプル数の確保が現実的でないことが判明したため,順調に進展していない.これらについては代わりの指標を用いる事で,本研究の目的を問題なく達成できると想定される.また,成果の発表の面では現時点で十分とは言えない.従って研究全体の進捗状況としては,概ね順調であるが,幾つかの点で生じた問題について順次対応しつつ進める必要があると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
今後も汚染地域非汚染地域計5地点においてサンプリングを行い,捕獲個体について解剖および尿やDNAなどのサンプルを採取した後,筋肉骨の放射能濃度を測定する.得られたサンプルは各種項目の検査に用い,放射能濃度や空間線量との相関関係から低線量放射線による影響の評価を行う.得られたデータは平成24年度の結果と総合して各種学会および論文にまとめて発表する.また,平成24年度の捕獲調査時における現地の状況や捕獲個体数の変動から,現地での長時間の処理が必須である生細胞を用いた影響評価は必要サンプル数を確保する事が難しいことが判明した.従って,平成25年度はこれらの項目の代わりにDNA多型以外の指標として,近年低線量放射線との関連が指摘されているDNAメチル化の検出による影響評価を試みる.
|
次年度の研究費の使用計画 |
捕獲調査に関わる消耗品等は一括して購入した物があるため,平成24年度よりも少ない費用でまかなえると考えている(100千円程度).しかし,平成24年度の現地調査においてほぼ想定通りの旅費がかかったものの,理想的なサンプル数を得るに至らなかった.従って平成25年度は同地点において複数回のサンプリングやより長期の滞在を予定しているため,調査旅費に多くの費用がかかると思われる(300千円程度).また,平成25年度はDNA多型マーカーの増設やシークエンスにより多くの費用がかかると予想される.これについては予算との関連から,全体の計画に問題の生じない範囲で調節する必要があると考えている(300千円程度).平成24年度に残った次年度使用額(58,471円)は新たな指標の検討にかかる分子生物学実験用消耗品費にあてる.
|