初年度は基礎検討として酸化チタンによる細胞傷害の測定方法の確立を目的とした。具体的には効率的な細胞死誘導条件および測定方法の検討を行った。結果として、細胞の生存はWST-8アッセイにより簡便に測定でき、 培地を無機塩をベースとした緩衝液(PBS)に置き換えた状態で、酸化チタン(P-25)濃度0.1 mg/ml、紫外線(UV-A)強度0.65 mW/cm2、紫外線照射時間20分にて細胞(HeLa)はほぼ死滅分解することが明らかとなった。紫外線照射時間を10~15分とすると半数の細胞は生存するが、生存した細胞もゆるやかに死へと向かい24時間でほぼ死滅する様子が観察された。このことは、条件によっては細胞死に急性のものと遅発性のものとが存在することを示している。急性のものに関しては、DNAラダーやカスバーゼの開裂が確認されず、この細胞死がアポトーシスでは無いことが示唆される。次年度は細胞死誘導時の細胞膜の傷害についての調査を行った。光触媒の効果により生じる過酸化脂質を過酸化脂質に反応する蛍光試薬と共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて解析したところ、紫外線照射後数分で細胞膜、核膜を含めた細胞の膜系全体に過酸化脂質が生じていることが明らかとなった(写真1)。光触媒の効果による細胞死には膜における過酸化脂質の産生が大きく関与していると考えられる。この脂質過酸化は細胞をα-トコフェロール(ビタミンE)で前処理することで抑制できることが確認できた(写真2)。光触媒の代わりに過酸化水素を用いた場合にも脂質過酸化は観察されるが、光触媒処理では細胞が崩壊しデブリ状に変化分解するのに対し、過酸化水素処理では細胞は形状を維持していた。これらの結果は光触媒から過酸化水素より強力な酸化力をもつ活性酸素種、恐らくヒドロキシルラジカルの生成が関与していることを示している。
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