昨年度までの検討により、カドミウムは小胞体関連蛋白質分解系(ERAD)による基質蛋白質の分解を抑制することで小胞体ストレスを引き起こしている可能性が示唆されている。ERADは小胞体内で生じたミスフォールド蛋白質の分解系であり、ミスフォールドされた蛋白質は、①ユビキチン化酵素によってユビキチン化され、②VCP複合体によって小胞体から細胞質側へ引き出される。その後、③脱糖鎖酵素によって脱糖鎖され、④プロテアソームへリクルートされた後に、⑤プロテアソームによって分解される。そこで、カドミウムのERAD機能阻害作用に関わる分子機構を解明するために、カドミウムがERADの各ステップに与える影響を検討した。その結果、カドミウムはERAD基質蛋白質であるTCRαユビキチン化、小胞体から細胞質側への引き出し、プロテアソームへのリクルートおよびプロテアソーム活性には影響を与えなかった。小胞体内から細胞質側に引き出された基質蛋白質がプロテアソームで分解されるためには、脱糖鎖酵素であるPNGaseによって蛋白質の糖鎖が解離される必要があるという報告がある。そこで、カドミウム処理がPNGaseによるTCRαの脱糖鎖に与える影響を検討したところ、カドミウムによる脱糖鎖酵素PNGaseの活性の抑制が認められた。また、PNGase高発現細胞はカドミウムに対して強い耐性を示した。以上のことから、カドミウムはPNGase活性を抑制することによってERAD機能を阻害しており、この作用はカドミウムによる小胞体ストレス誘導に関与していることが明らかになった。
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