研究概要 |
細胞骨格タンパク質であるチューブリンは重合して微小管を構成し、物質輸送等の細胞にとって不可欠な役割を果たしている。しかし従来、チューブリンに作用し毒性発現する環境化学物質は、重合・脱重合を直接阻害する物質を除いて見出されていなかった。そこで本研究では、環境化学物質の毒性標的としてチューブリンに着目し、チューブリンを毒性ターゲットとする化学物質を同定することにより、ヒトに与えるリスク評価を行う。また、化学物質がチューブリンに作用することによる影響を、チューブリン重合のみならず、微小管動態異常、チューブリンタンパク質の寿命延長に基づく不溶性チューブリン増加の観点から検討し、環境化学物質によるチューブリンを介した新規毒性とそのリスク影響を解明することが、本研究の目的である。 環境中に存在する化学物質を中心に、チューブリンのユビキチン化状態を変化させる物質を探索した。多くの化学物質で変化は認められなかったが、パーキンソン病脳脊髄液中で上昇することを報告している1-benzyl-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline (1BnTIQ) や、MPTPの活性代謝物MPP+が低濃度でチューブリンのユビキチン化を阻害することが明らかとなった。またこれに伴って、両物質により不溶性画分におけるチューブリンの増加が認められた。 これらが起こるメカニズムを調べたところ、1BnTIQはチューブリンに結合することにより、またMPP+はチューブリンにユビキチンを付加する酵素を阻害することにより、チューブリンのユビキチン化阻害および不溶化が惹起されることが示唆された。
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