研究課題/領域番号 |
24651065
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
五十嵐 勝秀 国立医薬品食品衛生研究所, 毒性部, 室長 (30342885)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | トキシコロジー / エピジェネティック毒性 |
研究概要 |
化学物質のエピゲノム作用により遅発毒性が生じる「エピジェネティック毒性」が注目されているが、研究の進展は遅れている。その原因として、エピゲノムを配列特異的に操作する技術が無く、検査研究にとどまらざるを得ないことが上げられる。本研究では、エピゲノムのうちDNAメチル化を取り上げ、「ゲノム上の任意の配列に対し特異的にDNAメチル基を導入する技術」を開発し、エピジェネティック毒性研究を検証型へシフトさせることを目的とする。そのために、実用化が進んだ「DNA結合タンパク質-ヌクレアーゼ」技術を応用し、「特異的にDNAメチル基を導入する技術」を開発する。 具体的には、「2ヶ所のDNA配列の同時認識による内在性DNAメチル化酵素の特異的リクルートとその2量体化による酵素活性の上昇」を狙い、内在性DNAメチル化酵素のノリとしてDNMT3L断片をDNA結合タンパク質TALEに付加した人工タンパク質を開発する。このアイディアの検証のために、神経幹細胞におけるGFAP遺伝子のDNAメチル化による発現制御系を用い、GFAPプロモーターの特異的高メチル化誘導を目指したTALE-DNMT3Lの設計と実用性検討を行う。 本年度は、GFAP プロモーター特異的TALE融合DNMT3L発現ベクターの設計および作製に取り組んだ。マウスGFAP遺伝子は、転写開始点上流約1.5kb に存在するSTAT3 結合配列中にCpG 配列を持ち、そのCがメチル化されているとSTAT3が結合できず、転写されないことが明らかになっている。そこで、このSTAT3結合配列を挟み特異的に結合するTALEタンパクをコードするDNA配列を設計した。そのためのベクターの合成までを終了し、現在、マウス神経幹細胞への導入と、目的配列への結合検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「2ヶ所のDNA配列の同時認識による内在性DNAメチル化酵素の特異的リクルートとその2量体化による酵素活性の上昇」を狙い、内在性DNAメチル化酵素のノリとしてDNMT3L断片をDNA結合タンパク質TALEに付加した人工タンパク質を開発する。このアイディアの検証のために、神経幹細胞におけるGFAP遺伝子のDNAメチル化による発現制御系を用い、GFAPプロモーターの特異的高メチル化誘導を目指したTALE-DNMT3Lの設計と実用性検討を行う。2年間で完成させる計画であり、初年度にGFAPプロモーター特異的TALE融合DNMT3L発現ベクターの設計および作製に取り組み、GFAP遺伝子の発現を制御するSTAT3結合配列を挟み特異的に結合するTALEタンパクをコードするDNA配列の設計、そのためのベクターの合成までを終了した。ここまで特に問題なく計画を遂行できており、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1 GFAPプロモーター特異的TALE融合DNMT3L発現ベクターの作製:初年度に実施した、GFAP遺伝子の発現を制御するSTAT3結合配列を挟み特異的に結合するTALEタンパクをコードするDNA配列の設計、そのためのベクターの合成を受け、その性能検討を行う。GFAPプロモーターへの結合が確認されたら、最終発現ベクターの作製を行う。 2 神経幹細胞へのベクター導入によるGFAP プロモーター高メチル化誘導確認:GFAP 遺伝子のDNA メチル化による発現制御が明確なマウス胎児神経幹細胞の培養系を用い、培養を経てメチル化率が0%になっている細胞にジンクフィンガーDNMT3L 発現ベクターを導入する。導入した細胞におけるGFAP プロモーターのDNA メチル化程度を、バイサルファイトクローニングシークエンス法によりDNA 配列レベルの解像度で定量する。 3 GFAPプロモーター高メチル化誘導に伴うGFAP発現低下の確認:DNA高メチル化を誘導した発現ベクターについて、GFAP発現低下作用を定量する。mRNAレベルを定量RT-PCR で測定し、タンパクレベルをウェスタンブロッティング法によって測定する。GFAP タンパクに対する抗体を用いた免疫染色法による検討も併用する。 4 ゲノム全体のDNAメチル化状態の解析による特異性検討:GFAPプロモーター以外のゲノム領域におけるDNAメチル化への影響を調べるために、ゲノム全体のDNAメチル化状態を測定する。 5 ZFもしくはTALE融合DNMT3Lのゲノム上の結合領域検索による特異性確認:付加したペプチドタグを用いたクロマチン免疫沈降を行い、高速シークエンサーを用いた網羅的解析により、GFAPプロモーター以外への結合状況を検討する。導入した2種類のジンクフィンガーDNMT3Lの単量体の結合状況、2量体の結合状況を比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度にDNMT3L断片をDNA結合タンパク質TALEに付加した人工タンパク質の発現ベクターの設計を終了し、予備発現ベクターの合成までを終えた。次年度は、予備発現ベクターの性能検証を経て、発現ベクターの設計調整、合成を行う。得た発現ベクターの性能検証を行い、本研究のアイディアの妥当性を検討する。よって、次年度は、マウス胎児終脳を材料にした胎児神経幹細胞の初代培養、発現ベクターの導入、分子生物学的手法を用いた検討が必要である。そのための研究費として、本年度の残予算を充てる。具体的には、実験動物としてマウスが必要となり、初代培養に必要な培地、試薬、器具等も必要である。また、ベクターを作製する為に合成DNAやDNA組み換え用の試薬、大腸菌の培養に必要な試薬一式、ベクターDNA精製に用いる試薬類が必要である。解析手法として、クロマチン免疫沈降法、定量PCR法、bisulfite sequencing法、高速シークエンサーを用いた全ゲノム解析法を主に用いる。それらに要する試薬類、PCR primer類、抗体類、高速シークエンサー解析用試薬類を消耗品として必要とする。
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