研究課題/領域番号 |
24651069
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
李 玉友 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (30201106)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 環境技術 / 下水処理 / メタン発酵 / 膜分離 / 古細菌 / 浸漬膜 / バイオガス / 水質 |
研究概要 |
近年下水処理プロセスの省エネルギー化が求められており、従来の嫌気性処理に膜分離技術を組み合わせた浸漬型嫌気性膜分離法(SAMBR)が注目されている。本研究は、SAMBRを下水処理に適用させるための試みとしてラボスケールの反応槽を用いて室温条件で人工下水の連続処理実験を行った。実験では水理学的滞留時間(HRT)を段階的に短縮することで容積負荷を上昇させ、室温条件における処理性能、膜性能に及ぼすHRTの影響を評価した。その結果、HRT12 hの連続実験では、COD除去率92%、BOD除去率96%を達成し、流入CODの72%がメタンガスに転換し、汚泥発生量は活性汚泥法の約1/3であった。また、逆洗浄や化学薬品による膜の洗浄処理無しに約70日間の連続運転が可能であった。具体的には以下のような知見が得られた。 (1)HRT12 hにおいて処理水のCOD濃度は34 mg/L、BOD濃度は11 mg/Lを示し、室温条件で標準活性汚泥法に比較できる高い処理性能を示した。HRT48 h、24 h、12 hにおける汚泥増加量はそれぞれ0.15、0.1、0.15 gVSS/gCODremであり、活性汚泥法の約1/3であった。 (2)投入されたCODは72 %がメタンガス、15 %が汚泥、5 %がその他となり、高いバイオガス収率を達成した。 (3)吸引時の膜圧はHRT12 hより上昇し、膜透過流束の減少が見られた。また、逆洗浄や膜の化学薬品による洗浄処理無しに約70日間の運転が可能であった。 (4)溶解性人工下水を処理する反応槽において酢酸資化性のMethanosaeta属は古細菌全体の7割近くを占めた。また真正細菌についてはBateroidetes門が約4割、Firmicutes門が約2割、Proteobateria門が約1割、それぞれ検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、嫌気性古細菌と分離膜の組み合わせによる下水処理の可能性を探るため、H24年度に次の3項目について研究を展開することになっていた。以下、項目別にそれぞれの進展をまとめる。 (1)ラボスケール嫌気性膜分離装置による人工下水長期連続処理実験:本研究ではまず下水をモデルとした人工基質を用いて長期連続処理実験を行い,その処理特性を把握し、室温条件においても良好な処理水質が得られることを確認した。また、定常状態におけるバイオガス生成量、余剰汚泥発生量などを明らかにし、物質収支を明らかにした。 (2)機能性分離膜の透過性能及び長期連続運転に対する耐久性能評価:運転開始時の膜透過瞬間流束は0.47 m/d であった。膜透過瞬間流束は運転経過とともに低下し、運転68日目に0.32 m/dとなった。83日目以降は流量を維持するために, 膜透過瞬間流束が0.31 m/dとなるようにポンプの回転数を設定した。一連の実験を通して、逆洗浄や膜の化学薬品による洗浄処理無しに約70日間の運転が可能であったことを確認した。また、膜圧上昇の原因を明らかにするため、取り出した膜を用いてSEMによる膜表面の観察を行い、原因物質を分析した。 (3)分子生物学的手法による低温嫌気性古細菌群集の集積培養と群集構造解析:反応槽にいる微生物群集構造を把握するため、クローニング法を用いて、古細菌および真正細菌の群集構造を把握した。 以上のように、当初計画した研究内容を全部実施して期待以上の成果を挙げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では室温条件において嫌気性浸漬膜型のメタン発酵によって下水処理を行うことができることを把握した。この成果を踏まえて、平成25年度は次のように研究を展開する。 (1)実下水を対象としたラボスケール嫌気性膜分離装置による長期連続処理実験:実下水への応用を考慮して、実下水を模擬した水質(SSと温度)を設定して、SS含有量と水温を変化させた連続実験を実施する。実下水の有機物濃度や浮遊物質含有量といった特性を把握し、嫌気性膜分離装置におけるそれぞれの挙動を測定・分析する。また下水中の特定物質と膜性能を連続的にモニタリングすることで長期連続運転における膜モジュールへの影響を評価する。 (2)嫌気性微生物群の解析とデザイン:新しい実験条件における嫌気性微生物群集構造を解析することで、本研究の条件に最も適した微生物群の選定を行う。集積された微生物群が長期連続の連続処理実験の中で示す菌体数や活性といった情報を把握することで、運転管理における指標となるようなデータを獲得する。特に温度による微生物発生や群集構造への影響を明らかにする。 (3)長期連続運転に対する各種運転パラメータの最適化:嫌気性膜分離装置における水質浄化効率の最適条件を検討するために、HRT、SS、温度による処理水質の影響を把握するとともに、分離膜の運転性能に対する洗浄や制御方法の影響を把握する。また、膜ファイリングに関連した因子を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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