アルミナスラリーを用いて,微粒子の沈降によって形成された濃縮層が負圧を発生する現象の解明と応用可能性を検証した.まずスラリーのpHが負圧に与える影響を確認するため,pHの異なるスラリーを調製し,静水圧測定実験を行った.その結果,負圧を発生したpH4.3のスラリーは他のpHのスラリーと比較して粒子の沈降界面が不明瞭で,粒子が良分散状態であることが分かった.他のpHのスラリーはいずれも嵩高い濃縮層を形成しており,凝集が進行していたことが分かった.これらの結果から,負圧はスラリー中粒子が良分散状態のときに発生し,良分散状態ではない場合はpHによらず負圧は発生しないことが分かった. 次に負圧が発生するスラリーが,アルミナスラリー特有の現象であるかどうかを明らかにするために,シリカ粒子を懸濁させたスラリーを調製し,静水圧測定実験を行った.その結果,シリカ粒子でも,良分散状態であれば負圧は発生する事が分かった.粒子の種類やゼータ電位の正負によらず,良分散状態であることが負圧発生に必要であるといえる.またpH調整以外にも高分子電解質を利用して分散スラリーを調製したが,同じように負圧が発生したため,分散方法には依存しないことも分かった. また実験時の堆積層の様子を注意深く観察した結果,粒子が沈降して濃縮層を作り,流動性を保ちながら粒子が沈降し続けることが負圧発生に必要であるということが分かった. スラリーの粒子濃度を大きくし,分散媒室と清澄層がつながらないようにして静水圧測定をし,負圧が発生するかどうかを確かめた.その結果,50 vol%では,大きな負圧が発生し,清澄層が分散媒室の蒸留水とつながっていなかった.以上の結果から,負圧は,大気と負圧発生層(高粒子濃度の固化していない濃縮層)を介して接触する密閉空間で発生すると結論できる.
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