研究課題
前年度、スギ急速熱分解生成物のその場接触改質実験を実施し、スギを芳香族化合物へ高効率転換することに成功した。加えてゼオライト骨格構造や組成が生成物分布に及ぼす影響についての知見を得、HZSM-5を用いたとき、バイオマスを最も選択的に芳香族へと転換できることも見出している。本年度は、転換機構の更なる詳細検討を目的に、木質バイオマス構成成分であるセルロース、リグニン、キシランをそれぞれ試料に用いた接触改質実験を実施した。その結果、セルロース急速熱分解生成物の接触改質において芳香族化合物収率が最大の32%に達することが分かった。スギの約60%がセルロースで構成されていることから、スギ急速熱分解生成物の接触改質実験において著しく増加した芳香族化合物はセルロースの分解に起因することを明らかにした。さらに、セルロースの熱分解主要生成物であるレボグルコサンを試料に用いた接触改質実験でも、セルロース同様に芳香族への選択的転換が認められた。レボグルコサンの熱分解では、フランが多量に生成するが、フランは接触改質によって殆どが転換したことより、フランが芳香族に至る重要な前駆体であると考えた。そこで、我々が提案している素反応からなるバイオマス転換反応速度モデルに基づいて芳香族への転換反応経路について検討した。その結果、フランの分解で生じるプロピンやプロパジエンを含むアルキンが重要な芳香族前駆体であることが予想された。しかしこれらの生成を本反応系において実験的に確認した例はなく、アルキンやジエンの生成特性を詳細に調査した。その結果、アセチレン、プロピン、シクロペンタジエンは触媒量が少ない領域すなわち接触時間の短い領域で高い収率を示した後、触媒量の増加に伴い減少することを明らかにした。アルキンやジエン炭化水素化合物が触媒上でも、芳香族化合物生成の中間体として重要な役割を果たしていることを初めて見出した。
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