前年度の試験結果で特に「漆コーティングによる補強効果」が高かった種類の粘土について試験片数を二倍にして再試験を行い、その種類の粘土において漆コーティングの効果が特別に大きいことを確認した。それと並行して、すり漆等の工程を塗装初期において導入することで剥離が起きにくくする試みを行いながら、展示会用試作品の制作に取り組んだ。試作品制作にあたっては、黒と赤という伝統的な彩色を避け、10対1で木地呂漆に朱漆を練り込んだものを器外側に、内側には通常の朱漆を塗る方法を、基本とした。また、色漆を多用した多彩さや、青貝の粉末を用いた装飾性も有する作品の制作にも取り組んだ。また、補足的実験として陶器の器と「素焼漆器」の器との熱伝導の比較試験を行った。 研究成果の発表として、青森県八戸市の「ポータルミュージアムはっち」と東京都世田谷区北沢の「あ~とすぺ~すMASUO」での展示会『科研費助成研究成果報告展示会 JSPS KAKENHI 24651083 八戸~東京 「素焼漆器」の可能性 ~土に還る器~』展を計画、実施した。約30点の試作品のほかに、A1掲示パネル6枚(①「素焼漆器」の魅力と可能性、②それは<縄文>の知恵、③漆の強度補強力、④土に還る器、⑤伝統的陶磁器産地の危機意識、⑥素焼漆器、その他のこと)を掲示して、素焼に漆を塗装した「素焼漆器」が縄文時代と基本的に同様の制作法によりながらも、焼成温度そのものは縄文時代には不可能だった高さで焼いていること、それに漆を塗装することで、実験結果による限り通常の陶器よりも落下などの衝撃に強いものとなっていること、それでいながら確実に土に還すことが可能であること、陶磁器産地では良質の粘土・陶土が枯渇し始めていること、日本の伝統的漆工芸が危機に瀕していること等々を訴えた。 展示会来場者からは「素焼漆器」の土に還る特性、特別な質感等々に肯定的感想が寄せられた。
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