研究課題/領域番号 |
24651084
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
武岡 真司 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20222094)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 環境材料 / 環境修復技術 / 除染 / セシウムイオン / カリックスアレーン / クラウンエーテル / ポリイミド薄膜 / ナノシート |
研究概要 |
2011年3月11日の東日本大震災により福島第一原子力発電所は甚大な被害を受け、高濃度の放射性物質が環境中にまき散らされ、放射性セシウムの除去(除染)が課題となっている。本研究では、セシウムイオンを凝集共沈法により簡単に沈殿回収できる高い選択制と除去率を有する有機環状分子をスクリーニングし、セシウムイオンを濃縮、焼却灰化することで、究極的に減容する処理法を提案する。 今年度は、セシウムイオンと包接体を形成するカリックスアレーンクラウンエーテル誘導体の分子設計において、クラウンエーテル部に導入するカテコール誘導体の位置やカテコール誘導体への置換基の種類等を変化させた化合物を合成し、炭酸セシウムを用いてカリックスアレーン部に結合させ環状分子のライブラリーを構築した。本ライブラリーに対してESI-MS-CAD法を用いてスクリーニングを行った結果、カリックスアレーン部に近い所にカテコール誘導体が入るとセシウムイオン包接の安定度が低下し、環頂部への導入とした。また、その場合はカテコール誘導体に対する置換基の影響は殆ど認められなかった。従って、アミノ基置換基カテコール誘導体を環頂部に導入したカリックスアレーンベンゾ6-クラウンエーテルが合成ルートも考慮すると最適と判断された。 有機酸部は、本包接化合物に直接導入するのではなくアミノ基を介して導入する方法とした。疎水部の導入に関しては、合成の煩雑さならびに得られた化合物の溶解性を考慮すると困難であることが判明したためにこれを用いず、代わりにスクリーニングで得られたクラウンエーテル部をここに導入し、対称性の高いジクラウンエーテルカリックスアレーンのジアミノ体を最終的に設計した。 これにテトラカルボン酸二無水物と反応させてポリアミド酸を得る計画とし、現在ジアミノ体の量合成を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に計画していた、セシウムイオン包接環状分子の化合物ライブラリーを小規模で構築してESI-MS-CAD法で評価し始めた段階で、幸運にも最適な構造を見極めることができた。即ちアミノ基を導入したカテコールアミン誘導体をクラウンエーテル部の頂部に用いることとした。それに伴って、設計の変更も行った。具体的には疎水部は、その導入の煩雑さや沈殿形成の制御などを考慮すると適切ではない。さらにセシウムイオンの包接密度を考慮して、ここにもクラウンエーテル部を導入することとした。それによってジクラウンエーテルカリックスアレーンのジアミノ体が分子設計された。 これは合成も容易であるために、量合成にすぐに着手できた。更に発想を展開して、このジアミノ体とテトラカルボン酸二無水物を作用させてポリアミド酸を合成し、これ自体を有機酸、あるいはさらに有機酸を高分子反応で導入させることにより、セシウムイオンを高濃度に包接するポリイミドナノフィルムの設計に発展させることができた。 従って、平成25年度の1)ESI-MS-CAD法を用いた環状分子ライブラリーのスクリーニングは既に終了し、現在2)候補化合物の量合成を行っている。従って、平成24年度の計画は終了している段階である。その代りテトラカルボン酸二無水物の方のスクリーニングならびにポリイミド薄膜の創製が平成25年度の課題として追加される。
|
今後の研究の推進方策 |
量合成したジクラウンエーテルカリックスアレーンのジアミノ体とテトラカルボン酸二無水物ライブラリーを付加させたポリアミド酸と、これをキャストした後に縮合させたポリイミド薄膜についてセシウムイオン除去能について評価する。 具体的には、ピロメリット酸二無水物を基本骨格とし、このベンゼン環に有機酸を後導入するための官能基や嵩高さを制御する置換基を導入したライブラリーを構築する。これと量合成したジクラウンエーテルカリックスアレーンのジアミノ体とを付加させたポリアミド酸について、分子量並びに溶解性について評価を行う。また、ポリアミド酸を適当な溶媒からのキャストによって膜厚が数十ナノメートルの高分子薄膜(ナノシート)を得、これを加熱処理にて脱水縮合してフリースタンディングなポリイミド薄膜を得る。 既にナノシートを大量に製造する方法や装置はあるので、評価するのに十分な量のポリイミド薄膜を調製し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)ならびにX線 光電子分光装置(XPS)を用いて、セシウムイオン除去能(除去率、分配係数)を評価する。 さらに、フリースタンディングなポリイミド薄膜を巻き取りモジュール化し、汚染水をモデル化した、高塩濃度あるいは酸性のセシウムイオン水溶液を本モジュールに透過させてセシウムイオン除去能を評価する。セシウムイオンを捕捉した本モジュールを乾燥後実験炉を用いて焼却を行い、焼却灰の重量と灰の分析による組成からセシウム重量比を換算する。最終的には、本法により汚染水からの放射性セシウムイオン除去のために必要なモジュールの構造とスペックを計算し、費用を見積もる。 フィールド試験の準備として、モノマー合成委託、ポリイミド薄膜の合成ならびにモジュール化のための企業(試薬会社、フィルム会社など)の協力を仰ぐ。また、関係箇所とも連携をしながら、評価に必要な予算の獲得を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、量合成ならびにテトラカルボン酸二無水物誘導体の合成あるいは入手のために100~120万円程度を支出する。具体的には、スクリーニングのためのテトラカルボン酸二無水物誘導体の購入あるいは合成には、小規模であるために10~20万円程度で十分であるが、量合成に入った段階で費用は合成量に依存する。モジュール化を考えると合成量は多いほど充実した評価ができるものの、本経費では不十分であるので、モジュール評価は数本に留まると思われる。また、セシウムイオン除去能の評価のために装置使用料が30万円程度見込まれる。研究の進捗状況に伴い、フィールド試験の準備のための出張やモジュール試作のための費用が必要となる。これには間接経費を充当する予定である。
|