2011年3月11日の東日本大震災により福島第一原子力発電所は甚大な被害を受け、高濃度の放射性物質が環境中に撒き散らされ、特に放射性セシウムの除去(除染)が喫緊の課題となっている。本研究では、セシウムイオンを凝集沈殿法により簡単に沈殿回収できる高い選択率と除去率を有する有機環状分子をスクリーニングし、セシウムイオンを瞬時に沈殿濃縮、焼却灰化することで、究極的に減容する処理法を提案する。 平成25年度は、平成24年度のESI-MS-CAD法によるスクリーニングを経て分子設計されたジクラウンエーテルカリックスアレーンのジアミノ体を量合成した。これをテトラカルボン酸二無水物誘導体と塩化セシウムを用いてポリアミドとし、数平均分子量18万の高分子量体が得られた。セシウムイオン結合サイトを高密度に持つポリアミドは水に難溶であったために、凝集沈殿法によるセシウムイオンの除去ではなく、当研究室のナノシートの技術とノウハウを活かしてポリアミド薄膜にてセシウムイオンを吸着除去する材料とした。 ポリアミド/ポリスチレン/ポリビニルアルコール/基板の複合薄膜を構築し、水中でポリビニルアルコールを溶解させて、ポリスチレンで支持されたポリアミド薄膜が得られたので、これを水晶振動子マイクロバランス法を用いてセシウムイオン捕捉能を評価したところ、セシウムイオン濃度4x10E10 Mで一つ目の吸着サイトが50%となった。ただし、カリウムイオンに対して70倍、ナトリウムイオンに対しては150倍の選択性しか得られなかった。IPC-MS測定した会合定数、分配係数は各々4.72、5.73であり、ゼオライトやプルシアンブルーと同等であった。 結論として、無機系セシウムイオン吸着材と比較してイオン選択性は劣るものの捕捉能は同等であり、焼却処理による減容の効果は大いに期待できる材料であると思われた。
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