研究課題/領域番号 |
24651089
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
堀 知行 独立行政法人産業技術総合研究所, 環境管理技術研究部門, 主任研究員 (20509533)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 環境技術 / 水質汚濁・土壌汚染防止・浄化 / 生物圏現象 / 地球化学 / 微生物 |
研究概要 |
本研究では、未培養微生物の機能を直接同定する「Stable Isotope Probing(SIP)」や環境メタゲノミクスを駆使することによって、六価クロム汚染土壌の還元(Cr6+[拡散性・有毒]→Cr3+[非拡散性・無毒])またはセレン汚染土壌の還元(Se6+[拡散性]→Se4+[非拡散性])に関与する未知環境微生物群の実体を明らかにし、当該汚染土壌の分子診断法および修復活性化法の確立を目指す。平成24年度は、六価クロムおよびセレンで汚染された土壌において重金属還元に関与する環境微生物群の同定を試みた。六価クロムまたはセレンで汚染された土壌を前培養に供し、内在する微生物群の代謝を活性化させた。さらに重金属類を電子受容体、酢酸を電子供与体とする本培養試験を行った。なお対照区として、1. オートクレーブ滅菌土壌に同様に基質を添加した系、2. 電子供与体は加えるものの電子受容体を添加しない系を用意した。六価クロムおよびセレンの酸化還元動態の把握にはICP-AESを用い、酢酸濃度はHPLCにより測定した。その結果、六価クロム汚染土壌では、対照区を含めたすべての土壌においてCr6+の減少が見られたが、酢酸濃度は減少せずにほぼ一定の値をとった。この事は、Cr6+減少が微生物作用でなく土壌吸着や土壌化学成分による還元等に依るものであることを示唆している。一方でセレン汚染土壌では、対照区以外の土壌においてSe6+の減少が観察され、それに連動してSe4+の上昇と酢酸の減少が起こった。対照区では、そのような変化が見られないことから、セレンは土壌に内在する微生物によって還元されていることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、六価クロムおよびセレンの酸化還元動態を把握するために、新たにICP-AESを用いた化学分析系を立ち上げることができた。研究開始当初、汚染土壌で重金属類の酸化還元動態を解明するのに困難が予想され、X線吸収微細構造解析(XAFS)の導入も考えたが、ICP-AESと化学還元処理を組み合せることで技術的困難をブレークスルーすることが可能であった。また対象重金属も当初六価クロムのみであったが、セレン汚染土壌も企業の協力により取得することができたため、六価クロムおよびセレンの還元菌同定試験を並行して進めることにした。この結果、汚染土壌における六価クロムの減少には土壌吸着や土壌化学成分による還元が寄与している可能性が高く、一方でセレン汚染土壌では微生物還元が深く関与していることを見出すことができた。重金属類の汚染土壌から微生物核酸(DNAまたはRNA)の抽出を試みているが、現在までにSIPに供するのに十分な核酸量が得られていない。しかしながら、環境メタゲノミクス(PCRを介した細菌16S rRNA遺伝子の大規模塩基配列解読)を行うだけの核酸量は確保できているため、今後は本手法を中核に据えた研究展開を予定している。またSIPによる重金属還元菌の直接同定を目指し、引き続き微生物核酸の抽出量を増やすための策(抽出方法の変更や解析スケールアップ)を講じてゆく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に引き続き、汚染土壌における六価クロムまたはセレンの還元微生物の同定試験を続けてゆく。重金属の酸化還元動態を把握するために、すでにICP-AESやHPLCなどの化学分析系は確立されている。一方で、重金属汚染土壌からの微生物核酸の抽出量が十分でなく、SIP試験を実施することができない状況にある。この問題点を打開するために、環境メタゲノミクス(PCRを介した細菌16S rRNA遺伝子の大規模塩基配列解読)を実験手法の中核に据える。現在までに当該研究を行うだけの核酸量は確保できている。なお申請者の所属研究部門では環境メタゲノミクスに用いる次世代シークエンサー(MiSeq, illumina)を2012年3月に導入しその最適化作業を終えているため、環境ゲノミクスデータの速やかな取得が可能である。以上のように本研究課題を進めるための実験系は初年度で全て確立することができた。今後必要となるのは、実験を集中的に行い、成果取得を加速化させることである。そこで平成25年度は実験補助員を一定期間雇用し実験人員を確保する事により研究成果の早期結実を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、物品費(設備費・実験消耗品費)および人件費(実験補助員の雇用費)、および成果発表のための国内外旅費等を計上する。平成24年度予算の繰り越し理由として、重金属汚染土壌から微生物核酸を抽出するのに困難が生じ、当該年度にSIP試験や環境メタゲノミクス解析が実施できなかったことが挙げられる。それに伴って研究開始当初に予定していた実験設備(微生物系統解析用ワークステーション)の購入を延期した。しかし、現在までに環境メタゲノミクスに供するのに十分量の微生物核酸が取得できたため、核酸抽出以降の実験消耗品(主に遺伝子工学関連試薬)や上述の次世代シークエンスデータ系統解析用ワークステーションを随時導入してゆく。また平成24年度に確立した実験系をフル稼働させ、成果結実を加速化させるために、実験補助者を一定期間(6ヶ月程度)雇用することを予定している。さらに平成25年度は本研究課題実施の最終年度であるため、その成果発表に関わる経費(学会参加費、国内外旅費、論文投稿費等)を計上する。
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