研究課題/領域番号 |
24651090
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田口 精一 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70216828)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 新規モノマー / 基質特異性 / モノマー組成 / ポリマー物性 / 乳酸ポリマー / 微生物工場 / CoA転移酵素 / 重合酵素 |
研究概要 |
近年の石油資源の枯渇や環境保全の観点から、代替エネルギー資源やバイオベースの高分子材料の探索・合成に対する関心が世界的規模で高まっている。環境・生体調和型のバイオポリマーとして期待されている脂肪酸ポリまであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の微生物合成システムに関する研究の歴史は長いが、この種のポリマーの産業化にはいくつかの解決しなければならない課題があった。本プロジェクトでは、新規モノマー導入型ポリマーの創製を目的に、微生物ポリマー合成システムのリモデリングから出発した。 これまでに、天然型のPHA重合酵素は約70種以上が遺伝子クローニングされその酵素学的性質もいくつか調べられている。その共通の性質として、3位に水酸基を有するアルカン酸を基質認識することで知られていたが、我々の長年の人工進化実験を通じてついに2位に水酸基を有する乳酸のCoA体(LA-CoA)を認識し、ポリマー鎖内に乳酸ユニットを取り込む重合を酵素を取得できた。この乳酸重合酵素の発見を契機に、さらに乳酸類似の化合物をモノマー基質としてポリマー鎖内に取り込める重合酵素あるいはモノマー供給可能なCoA転移酵素の取得がプロジェクトの主要な課題となった。 今回は、乳酸分率が向上する培養条件検討から着手して充分量にターゲットモノマーが細胞内に供給できる条件を最適化することに専念した。その結果、通気度制御と代謝改変株の組み合わせにより、乳酸分率の向上が実現した。また、全く新しい試みとして、同じく2位に水酸基を有する乳酸類似化合物としてグリコール酸を選定し、グリコール酸のポリマー鎖内取り込み実験を開始した。グリコール酸は、乳酸と異なり光学活性炭素を持たない点で乳酸と区別化され、反応に関与する2種の酵素であるCoA転移酵素および乳酸重合酵素の基質特異性に適合するか関心が持たれたが、グリコール酸含有ポリマーの合成が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
環境・生体調和型のバイオポリマーとして期待されているポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の微生物合成システムを基盤として、新規モノマー導入型ポリマーの創製を目的に本プロジェクトはスタートした。これまでの研究から、天然型PHA重合酵素は3位に水酸基を有するアルカン酸を基質認識することで知られていたが、人工進化実験を組み込むことで2位に水酸基を有する乳酸のCoA体(LA-CoA)を認識し、ポリマー鎖内に乳酸ユニットを取り込む重合を酵素を取得できた。この乳酸重合酵素の発見を契機に、さらに乳酸類似の化合物をモノマー基質としてポリマー鎖内に取り込める重合酵素あるいはモノマー供給可能なCoA転移酵素の取得がプロジェクトの主要な課題となった。さらに、共同研究において、5位に水酸基を有するアルカン酸にも反応性を示す重合酵素変異体が見つかり、重合酵素の基質特異性変換のキャパシティーの広さが示されている。 まずは、新規モノマーとして認識可能となった乳酸自体のポリマー鎖内への取り込みキャパシティーを調べることから着手し、通気度を制御する培養工学的検討により、数モル%から50モル%近くまで分率を向上できることがわかった。次の段階として、乳酸に類似の化学構造を有する新規物質グリコール酸に注目し、培地中に濃度を変えながら添加した。膜透過→CoA転移酵素によるCoA化→重合酵素の認識によるグリコール酸ユニットのポリマー鎖内への取り込み の複数ステップからなる一連のプロセスデザインが想定通り機能するかを調べた。結果、少量ながらグリコール酸ユニットをGC/MSおよびNMR解析により確認することができ、構築したパスウエーが設計通りに作動することが予定の時期よりも早目に明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、膜透過→CoA転移酵素によるCoA化→重合酵素の認識によるグリコール酸ユニットのポリマー鎖内への取り込み の複数ステップからなる一連のプロセスデザインが良好に作動するかどうかを、大腸菌細胞を使用したインビボ実験により最終プロダクトであるグリコール酸含有ポリマーの合成確認により実証できた。しかし、各ステップでの酵素の反応性や一連のポリマー合成パスウエーの律速段階のアドレスは、今後のグリコール酸含有ポリマーの効率的生産を実現する上での重要課題である。グリコール酸の細胞内導入を定量化するのは困難なので、CoA転移酵素によってCoA化されたグリコール酸-CoAを標準品を使用してメタボローム解析にて定量する。乳酸重合酵素のグリコール酸に対する反応性は、インビトロで活性試験を行い、乳酸重合酵素のさらなる改変が必要かを見極める。また、乳酸重合酵素の側鎖構造における基質特異性という観点から、乳酸モノマーとグリコール酸モノマーに対する反応性を取得する変異体毎に調査する。これら基礎的なデータを充実させたところで、本格的に対象ポリマーの微生物培養条件の最適化を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)ポリマー鎖内の乳酸分率の向上 微生物培養時の通気度制御とカウンターパートモノマーとなる3HB-CoAの生成量の軽減の両再度からアプローチする。前者は、ジャーファーメンタを使用して溶存酸素量をモニタリングし、後者はPhaB還元酵素の低活性体を意図的に使用する。(本実験では、微生物培養用の培地と集菌に必要な試薬類を購入する計画である。) (2)膜透過→CoA転移酵素によるグリコール酸のCoA化→重合酵素の認識によるグリコール酸ユニットのポリマー鎖内への取り込み実験 上記の複数ステップが良好に作動するかどうかを、大腸菌細胞を使用したインビボ実験により最終プロダクトであるグリコール酸含有ポリマーの合成の再現性確認を行う。各ステップでの酵素の反応性や一連のポリマー合成パスウエーの律速段階のアドレスは、効率的ポリマー生産のための重要課題である。そこで、グリコール酸-CoAを標準品を使用してメタボローム解析にて定量する。乳酸重合酵素のグリコール酸に対する反応性は、インビトロで活性試験を行い、乳酸重合酵素のさらなる改変が必要かを見極める。また、乳酸モノマーとグリコール酸モノマーに対する反応性を取得する変異体毎に調査する。これら基礎的なデータを充実させたところで、本格的に対象ポリマーの微生物培養条件の最適化を試みる。(これらの研究目的を達成するために、遺伝子発現構築用酵素およびタンパク質解析用の試薬を購入する予定である。また、微生物細胞内合成ポリマーの分析に使用する試薬も購入する予定である。) (3)乳酸重合酵素の他種モノマー認識能の探索 将来的に余裕があれば、乳酸・グリコール酸以外の構造類似モノマー基質を市販購入か有機化学的に合成して、インビトロ酵素認識活性試験を行う。(本実験では、構造類似モノマー基質を一部購入し、有機化学的に自前合成する分は合成試薬を購入する計画である。)
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