石油依存型のモノ作りからの脱却が求められている現代、再生可能資源であるバイオマスの高度利用は世界的な研究課題である。最近、当研究室では多くの微生物が合成するポリエステルであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)に注目し、化学合成ポリマーにない物性の発現や環境低負荷型の合成プロセスの開発に取り組んでいる。本プロジェクトでは、ポリマー合成の最終段階で触媒する重合酵素に焦点を当て、その基質特異性を改変することで新規モノマーの取り込みを実現することで新規ポリマーを合成することを基盤としている。これまでは、重合酵素改変の最大の成果として従来重合が不可能であった乳酸の取り込みが挙げられる。しかし、この前提としてモノマー前駆体としての乳酸のCoA体の合成に関与するCoA転移酵素の反応性が鍵となっていた。前年度は、この乳酸CoAの供給を最終的な乳酸取り込みポリマーの合成を通してその成否を評価しており、一定の成果を上げた。今年度は、同じく2位に水酸基を有する乳酸類似体であるグリコール酸の取り込み能力およびCoA活性化の再検証とポリマー合成向上に有効な因子の探索に移行した。グリコール酸を外部添加し微生物培養後最終的に得られたポリマーサンプルをNMR解析に供したところ、確かにグリコール酸ユニットが取り込まれたことが分かり、その分率も添加したグリコール酸濃度に依存していた。しかし、ある濃度以上になると菌体自身の増殖に影響が生じた。また、重合に基底レベルで必須の3HB-CoAの供給に直接関与する還元酵素の低活性体の利用は顕著な効果がなかった。今後、グリコール酸の細胞内取り込み能力を強化すると同時に、高濃度グリコール酸に対する耐性の付与が課題となることもわかった。また、細胞内のモノマー中間体(乳酸-CoA)の追跡をLC-MSによって行う系の立ち上げに着手した。
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