研究課題
植物色素アントシアニンは、初期にGrätzelらによって色素増感太陽電池への利用が試されたように、吸収波長が広く、モル吸収係数が大きい上、レアメタルも必要とせず、安価で安全な色素増感太陽電池色素として大きな可能性を有する。しかし、現状では変換効率が1%以下と低く、実用化には何らかのブレイクスルーが必要である。本研究では、アントシアニンを用いた高効率な色素増感太陽電池の創成を目的に、従来全く検討されていなかった、複雑で安定な分子会合型の青色アントシアニンを用いて、太陽電池セルを作成し、酸化チタンや電解質との相互作用の精密化学解析および計算化学を用いて構造と変換効率の格段の向上を目指した。さらに、アントシアニジン類を分子設計して合成した。まず、安定な自己組織化金属錯体色素で分子量が8800のツユクサ花弁色素コンメリニン(1)および、その中心金属をMgからCdに変換したCd-コンメリニン(2)、ならびに、空色西洋アサガオ花弁色素で分子内会合により安定化されている多アシル化アントシアニンのヘブンリーブルーアントシアニン(3)を用いて太陽電池を作成し、評価した。さらに、単純な構造のアントシアニンとして、3-グルコシルシアニジン(4)、デルフィニジン(5)、ペチュニジン(6)、およびマルビジン(7)、および3-ルチノシルシアニジン(8)を用い、同様に性能評価を行った。発電効率は3が0.64%、6が0.62%であった。セルの色は、発色団の違いによって異なり、青からピンクまでの色の幅を示した。さらに、糖を持たないアントシアニジン類を分子設計して合成した。メチル化ケルセチンを合成し、メチル化アントシアニジンへの変換反応を行なった。
2: おおむね順調に進展している
合成色素の調製に若干手間取り、性能評価まで進めなかったため
1)色素と酸化チタンとの相互作用の解明を行う。増感色素と酸化チタンとがどのように相互作用しているかは、電荷分離した電子がいかに効率よく注入されるかという点から極めて重要なポイントである。これを明らかにする目的で、酸化チタンの粉末にアントシアニン色素を吸着させ、溶液との色変化を測定する。さらに、これを固体NMRを測定し、溶液NMRの結果と比較分析する。B環構造の違いによりチタンが配位しない色素とのスペクトル比較も同時に行う。これにより、色素のどの位置がチタンと錯体を形成しているか、また、分子同士がどのように会合しているかを明らかにする。2)計算化学による色素の電子状態の解析を行う。上記アントシアニンの電子状態を分子軌道により計算し、HOMO, LUMO軌道のエネルギーを求める。アントシアニンのアントシアニンは溶液内では液性により数種の構造の平衡下にあるため、計算がきわめて難しい。一方、申請者等はすでに、多数のアントシアニンの化学構造研究により、発色によって化学種を推測することが可能である。そこでまず、酸性、中性、塩基性とそれぞれに化学種を固定した計算を行う。次に、酸化チタンに吸着させた色素の吸収スペクトル計測から寄与分を見積もる方法を取る。特に金属錯体を形成し、酸化チタンとは直接発色団が相互作用しない構造と、酸化チタンと発色団のB環部分が錯体形成する系とで計算し、変換効率の実測データと比較検討する。3)新規色素の分子設計と合成、性能評価有機溶媒溶解性の向上をはかるため、完全メチル化、完全アセチル化アントシアニンを合成する。すでに新規反応を開発し、フラボノールからアントシアニンへの効率的変換反応を確立済みである。本反応で脂溶性アントシアニン色素や高分子に色素を一定間隔で結合させたポリアントシアニンを設計・合成して、これらの性能評価を行う。
合成した新規色素および手持ちの色素を使って、セルを作成し、精力的に性能評価を行う。そのための酸化チタンペーストの購入、導電ガラスの購入、および色素合成の試薬、ならびに性能評価のための旅費に研究費を使用する。さらに、チタンに色素が結合した形での化学計算を行う。この計算機使用料に研究費を使用する。
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Genes to Cells
巻: 18 ページ: 341-352
10.1111/gtc.12041
PLOS ONE
巻: 7 ページ: e73189