Pseudomonas sp. ITH-SA-1株は、低分子リグニンの一種であるシリングアルデヒド(SYAL)を基質として菌体外に水溶性の蛍光物質を生産する菌株として海水より単離された株である。ITH-SA-1株の生産する蛍光物質は熱やpH耐性を有していたことから、既存の蛍光物質とは異なった利用も考えられ、従来と差別化された新しい応用分野が拓ける可能性がある。昨年度までの研究において、本蛍光物質は、水及びMeOHには易溶であるが、EtOHなど極性有機溶媒には難溶または全く溶解しないという極めて高極性の物質であることが示唆され、また蛍光励起スペクトルを検討したところ、Ex 356 nm、Em 498 nmの励起蛍光スペクトルを示し、青緑色の蛍光を発することを明らかにしており、さらに、分子量を検討したところ、平均分子量7.2 kDaの複合体であることを示している。 本年度の研究では、まず本蛍光物質の生合成経路について検討した。培養上清のHPLC解析および各種培養試験により、ITH-SA-1株は添加したSYALをシリンガ酸(SAYC)から3-0-メチルガリック酸(3MGA)に変換し、その後3MGAが重合して蛍光物質となっていることが示唆された。続いて、これらを大量に取得し、ゲルろ過クロマトグラフィーおよびMeOHにより蛍光物質を分離、精製したサンプルを取得した。このサンプルについて、ICP-MSで無機成分について検討したところ、無機物は約3%含まれていたが、蛍光に関与する成分は検出されなかった。続いて、NMR、ATR-FTIR解析で化学構造を検討したところ、多くのカルボニル基、エステル基等の存在が確認されたが、ベンゼン環由来のシグナルは確認されなかった。ここから、本蛍光物質は、ベンゼン環を含まない希少な構造を有しているものと示唆された。
|