研究課題/領域番号 |
24651098
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土田 秀次 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50304150)
|
研究分担者 |
冨田 成夫 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 准教授 (30375406)
斎藤 勇一 独立行政法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (40360424)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 分子配向 / キャピラリー / 高速イオンビーム |
研究概要 |
ナノキャピラリーを用いた高速分子・クラスターの配向法の開発を行うため、分子とキャピラリー内壁との相互作用の解明に焦点を絞り研究を実施した。実施した具体的な内容は、MeVエネルギー領域のクラスターイオン(C2、C3、C4イオン)を入射ビームとして用いて、キャピラリーから出射したクラスターの生存率について、①クラスターサイズ、②イオン速度、③キャピラリー孔径に対する依存性を系統的に調べた。また、出射した粒子の荷電分布についても研究した。さらに、数百keV領域のC60クラスターイオンを入射ビームとして用いて、その透過特性についても調べた。これらの研究で得られた成果をRegular paper2編および国際会議Proceedings paper1編の合計3編の論文にまとめ公表した。 次に、高速重イオントラックエッチング法により多孔膜を作製した。具体的には、500MeV程度のOsイオンビームをKapton膜(厚さ数十マイクロ程度)に照射し、化学エッチングにより多孔膜を作製する。多孔膜の孔径および孔密度を制御する基礎パラメータの取得を行った。 最後に、本研究の最終目的であるキャピラリー内で発生する円筒形表面ウェイクポテンシャルによる分子配向制御について、その予備実験を行った。具体的には、キャピラリー内壁相互作用における表面ウェイク効果の有無を調べるため、高速非等核2原子分子イオン(HeH+ビーム)を用いて、キャピラリー透過によって解離した粒子の高分解能エネルギー分析実験を実施した。その結果、解離したH+のエネルギースペクトルにおいてウェイク効果を受けたことを裏付ける実験結果を得た。さらに、得られたエネルギースペクトルには、固体薄膜透過による結果と異なる部分があることが明らかになり、キャピラリー透過の特異性を示唆する結果であると考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画は、①クラスターイオンのキャピラリー透過特性の基礎データを取得すること、および②イオントラックエッチング法によるナノキャピラリー(多孔膜)の作製・開発と行うことに大別される。 ①についての計画は、数MeVの2原子イオンにおけるキャピラリーの透過特性(分子イオンの生存率)について、イオン速度およびキャピラリー形状(孔径やアスペクト比)に対する依存性を取得し、本研究の目的である分子配向実験に用いるキャピラリーの最適条件を抽出することであった。これらの基礎的なデータをおおむね取得することができ、査読付き投稿論文(3編)にまとめることができた。 ②についての計画は、高速重イオンによるイオントラックエッチング法によりナノキャピラリーの作製・開発を行うことであった。作製するにあたり基本パラメータを取得することが目的であり、イオントラック法におけるイオン種およびエネルギーの選択、化学エッチングにおける最適条件(エッチング液の濃度および温度、エッチング時間)を見出すことができた。一方、作製した孔の互いの平行性を制御する手法を確立するまでには至らず、今後の課題として挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
ナノキャピラリーを透過した高速分子イオンの分子軸配向現象を調べるため、以下2つの研究課題を実施する。 1つ目は、キャピラリー内で生じる表面ウェイク効果の有無を明らかにするため、解離イオンの高分解能エネルギー分析を実施し、固体薄膜透過および表面すれすれ散乱におけるウェイク効果に関する過去の研究例と比較し、キャピラリー内で生じる表面ウェイク効果の特異性について調べる。この課題については、既に予備実験を開始しており、予備実験から得られた結果を踏まえた実験をさらに推進する。 2つ目は、分子軸配向を調べるため、解離せずにキャピラリーを透過した分子の分子軸の方向を計測する。この研究では、蛍光アノード付マイクロチャンネル検出器とCCDとを組み合わせた2次元画像計測を実施し、分子軸分布を明らかにする。分子軸分布は、キャピラリー孔径やキャピラリー軸とビーム軸とのなす角等に強く依存することが予想されるので、それらについて系統的な研究を推進する。この課題については、開発すべき実験装置の概容を研究分担者とともに練っているので、これを実現する装置開発を今後進める。 これと並行して、ナノキャピラリーの形状を制御できる(孔同士の平行性など)手法を確立することも必要であると考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策の部分で述べた内容を実施するにあたり、蛍光アノード付マイクロチャンネル検出器とCCDとを組み合わせた2次元画像計測システムを構築するため物品費として約200万円程度を執行する予定である。 また、分担者が実施する研究内容(高分解能エネルギー分析技術およびイメージング分析技術の構築に関する研究)の打ち合わせおよび情報交換等を実施するため、旅費の執行を予定している。
|