希ガスエキシマ分子は真空紫外域でのレーザー,ランプ光源として産業界に利用されるほどその技術は成熟している.しかし,従来に無い新しいエキシマ生成方法は常に望まれており,本研究はその一端を示すことを目的としている. 希ガスはその閉殻構造により室温では分子を形成する確率が非常に低いとされているが,希ガス内では希ガス原子2個が衝突することにより希ガスダイマ-(二量体)を生成する平衡反応が存在し,ダイマーの存在確率は圧力の二乗で増加することを分子の分配関数を利用する熱平衡反応を用いて導いた.したがって,室温常圧ではこの平衡反応による希ガスダイマーの存在確率は小さいが,高圧にすることで希ガスダイマーの存在確率が顕在化することが期待できる. この理論結果を用いて高圧希ガス(クリプトン)中での真空紫外吸収分光を行い,クリプトンダイマーに起因する吸収が圧力の二乗で増加することを確認し,高圧中でのクリプトンダイマーの存在を実証した.クリプトンダイマーの中心吸収波長はクリプトン原子の共鳴吸収波長と近接することが予想されたが,吸収分光の結果,クリプトン原子の共鳴線(波長123.6 nm)に対してクリプトンダイマーの吸収波長は125.0 nmと同定できた.またこれらの吸収線を解析することにより,クリプトンダイマーの吸収はクリプトン圧力の二乗に比例して増加することを確認した.2年間の本研究の成果は室温における高圧クリプトン中でのクリプトンダイマーの存在を吸収分光により実験的に確認したことにある. クリプトンダイマーの真空紫外光吸収により生成されるクリプトンエキシマからの真空紫外発光(波長147.0 nm)の測定を試みたが確認には至っていない.今後はより強度の高い真空紫外光励起を用いてクリプトンエキシマの真空紫外発光を実現し,コンパクトな高量子効率真空紫外光源の原理実証を行いたい.
|