研究課題/領域番号 |
24651107
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
山本 樹 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (20191405)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 放射光 / 挿入光源 / アンジュレータ |
研究概要 |
アンジュレータは,光源加速器において周回中の電子に周期磁場を印加することで周期運動を行わせ,干渉効果によって放射の単色度と輝度および空間指向性を著しく高める装置である。非常に高いエネルギーのアンジュレータ放射光(基本波で10keV以上)を生成することを目的として,極短周期アンジュレータ磁気回路の要素開発を行った。高エネルギー加速器研究機構・放射光研究施設(KEK-PF)における真空封止型短周期アンジュレータの開発においてこれまで蓄積した技術に基づくが,本研究では極短周期磁場の作成のために,新たに多極着磁法(磁気ヘッド等の磁石小片の精密着磁でも使われる)を応用した。 平成24年度においては,周期長4mmの極短周期磁気回路作成を試みた。この場合幅20mm x厚さ2mm x長さ約100mmの板状のNdFeB磁石中に,パルス的に励起した着磁用電磁石によって,周期長4mm 周期数25の極短周期磁気回路を書き込んだ。このようにして作成した2枚の板状磁石を互いに対向させることにより,その隙間(磁石ギャップ)の中心軸上に極短周期アンジュレータ磁場を生成することができる。 上記の開発において着磁用電磁石(着磁ヘッド)の最適化を行い,磁場周期の精度の向上,着磁強度の向上,磁場の均一度の向上を図った。また,この磁気回路は非常に狭いギャップで使用しなければならないので,必然的に,アンジュレータ磁気回路全体を加速器真空中に持ち込む真空封止型の磁気回路として開発した。 平成24年度においては,1.6mmの狭小な磁石ギャップ間において約4000Gの極短周期磁場(周期長=4mm)を作成する方法を確立できた。この磁場を持つ極短周期アンジュレータを電子エネルギー2.5GeVの蓄積リングに設置した場合,基本波によって12keV(波長1Å)領域の放射を得ることが可能になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通常の永久磁石型アンジュレータにおいては,磁場周期短縮のためにアンジュレータ磁石列を構成する永久磁石ブロックの寸法を,精度を保ちつつ縮小する。しかし,本研究においては,上述のように多極着磁法を応用した極短周期磁場作成法の確立を試みている。通常の方法では,磁石ブロックを構成するネジ等の機械部品の縮小化に限界があるからである。 多極着磁法では,極短周期のアンジュレータ磁場をパルス電磁石によって発生させ,これを希土類元素永久磁石材料(NdFeB系)素材に“転写”する。平成24年度においては,当面の目標として周期長4mmの磁気回路作成を試みた。この場合幅20mm x厚さ2mm x長さ約100mmの板状のNdFeB磁石素材に,パルス的に励起した電磁石によって約25周期分のアンジュレータ磁石列を“転写”する。 平成24年度の最重要課題は,周期長4mmの着磁用電磁石(着磁ヘッド)の最適化である。このために,(1) 着磁用電磁石の磁極数の最適化, (2) 着磁用電磁石のワイヤ固定法の最適化を行い,さらに (3) 磁石素材を着磁ヘッドと鉄製着磁ヨークにより挿みこむことにより着磁強度と着磁精度の向上を図った。極短周期アンジュレータ磁場は,互いに対向させた2枚の板状磁石の隙間(磁石ギャップ)に生成される。有効な磁場強度は非常に狭い磁石ギャップ(3mm程度以下)の時に得られるので,必然的に,磁石全体を加速器真空中に持ち込む真空封止型の磁気回路として開発する必要がある。このための磁石仕様はこれまでKEK-PFにおいて開発した真空封止型アンジュレータの磁石を参考にして満足させることができた。 磁場の測定値に基づく放射スペクトル計算の結果は,理想的アンジュレータからの放射と同等である(基本波の場合)ことを示している。 上述の成果により,本研究は現在までおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には,前年度に引き続いて磁場周期の精度向上,着磁強度の向上,磁場均一度の向上を図り,極短周期アンジュレータ磁場の着磁法を確立する。主に着磁コイルおよび着磁器本体の改良・改善によって目的を達成する。 アンジュレータ中で最適の電子軌道を得るためには,上記によって得られるアンジュレータ内部の高精度磁場のみならず,アンジュレータの入口と出口の端部磁場が重要になる。そこで平成25年度には,これら両端部の磁場を調整する方法の検討も行う。 またこのことに関係するが,磁気回路の“長尺化”のためには当然上記の板状磁石を長さ方向に連結することが必要になる。アンジュレータ内の磁石の継ぎ目部分において電子軌道に屈曲や段差などを生じさせずに,電子に継ぎ目を感じさせない磁場にすることがアンジュレータの性能として非常に重要である。このために,板状磁石長さ方向の端部磁場の最適化を行う。実際に長さ方向に2ユニット(枚)または3ユニット(枚)を連結して長尺化した磁場の最適化を試みる。 上記2年度における結果を取りまとめ,極短周期アンジュレータ磁気回路作成のための着磁法の開発として成果発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究の推進方針に従い,直接経費の執行を行う。この内物件費(総額約160万円)はすべて消耗品として執行する。内訳としては,着磁ヘッドの試作および改良に50万円,板状磁石材料に70万円,磁場測定のための治具と測定子製作に40万円を充てる予定である。 また旅費としては,国内旅費に10万円(研究打ち合わせ旅費6万円+成果発表旅費4万円)を,外国旅費に40万円(成果発表旅費)を充て総額50万円を計上している。その他として計上した10万円は,成果発表のための国際会議参加費(7万円を予定)を含む。 以上の平成25年度の使用計画には,平成24年度の「次年度使用額」981,800円を含む。これは主に,平成24年度後半に予定していた板状磁石素材購入を平成25年度に繰り越したために生じたものである。この磁石素材は,計画当初通常のNdFeB系磁石として購入を予定していたものである。研究の進行とともに板状磁石としてはより高性能(高残留磁束密度および高保磁力)が期待できるDy拡散型NdFeB系磁石が適している可能性あることが判明し購入計画の変更を検討したが,変更決定に時間を要するために購入を繰り越したものである。
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