研究課題/領域番号 |
24651110
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小川 博嗣 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (60356699)
|
研究分担者 |
木野村 淳 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (90225011)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 陽電子 / 格子欠陥 / 放射線、X線、粒子線 / 顕微鏡 |
研究概要 |
原子レベルの空孔型欠陥分布の測定に関して陽電子顕微鏡は電子顕微鏡に比べて優位性があり、他の計測手法では観察できない顕微鏡像が取得できる。しかし、再放出陽電子顕微鏡(PRM)は、画像取得に長時間必要という問題があり、実用化がなされて来なかった。この技術課題を解決するため、本研究では、電子線形加速器による高強度陽電子パルスビームを用いたPRM装置の開発を行っている。本年度は、1)PRM装置の設計および2) 加速器により生成した低速陽電子ビームをPRM装置に導入するためのビーム輸送・集束系の設計と構築を行った。 1) PRMの試料表面から再放出された陽電子が対物レンズ、投影レンズで構成される静電レンズを通過し、MCPに結像するまでの軌道をSIMIONコードにより計算し、各静電レンズへの最適な印加電圧を探索した。この計算を基にPRMの静電レンズの印加電圧を決定し、高圧電源の導入を行った。 2) 本研究を推進するため産業技術総合研究所・低速陽電子ビームラインにPRM専用のビームラインを建設した。更に陽電子ビームの輝度を増大させるため、陽電子集束レンズを設計した。陽電子ビームの軌道計算をField Precision社 TriCompコードを用いて行ない、直径10mmφの低速陽電子ビーム(E=10eV)を輸送し、5 - 10keVに加速して試料表面上に2mmφ以下に集束させる磁気レンズの条件を探索した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)PRMの設計を陽電子軌道計算に基づいて行い、静電レンズの電圧設定条件を決定することができた。また、PRM装置の高圧印加試験を行い、高空間分解能の顕微像を得るのに必要な10kVの耐電圧があることを確認した。 2)PRM専用のビームラインを建設し、低速陽電子ビームをPRM装置の真空ポートへ磁気輸送できることを確認した。また、陽電子集束系の設計を行い、磁気レンズにより試料表面上に2mmφ以下に集束できることが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
陽電子集束レンズシステムを製作し、陽電子ビームラインに設置する。線形加速器で生成した低速陽電子ビームを試料まで輸送し、試料位置に設置した蛍光面付MCPにより陽電子ビーム径および位置を計測しながら、集束レンズのパラメータを調整する。ビームスポットサイズが最小になる様に最適化した後、PRM装置をビームラインに導入する。 PRMの静電レンズの調整を陽電子ビームを用いて実施するのは、撮像時間が長時間かかるため現実的でない。そこで、PRM装置の電圧極性を反対にして光電子顕微鏡として動作させる。紫外線を試料に照射し、表面から放出される光電子像をモニターし、鮮明な像が得られるように各レンズのパラメータを選択する。PRMと光電子顕微鏡の静電レンズの電圧の絶対値は同じであるので、この調整により、実験的にPRMの印加電圧を決定するとともに、当顕微鏡のシステムチェックを行う。 次に、陽電子ビームを試料の背面から集束して照射し、試料反対側の表面から再放出される陽電子像を観察する実験を行う。評価用サンプルを用いてPRMによる観察を行い、当PRM装置の空間分解能および画像取得時間を評価する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
・低速陽電子ビームの輝度を増大させるための「陽電子集束レンズシステム」に必要な磁気レンズおよび真空チャンバーを購入する。 ・PRM装置全体を絶縁し、高電圧(耐電圧10kV)印加が可能な架台を製作する。 ・当顕微鏡の評価用サンプルの金属試料や真空部品、高圧電源を遠隔操作するために必要な電子部品などの消耗品を購入する。 ・これらの成果を学会(「第50回 アイソトープ・放射線研究発表会」、「The 12th Asia Pacific Physics Conference」等)で発表するため旅費を使用する。
|