メソポーラスシリカ中の電解質水溶液は、細孔表面と水との相互作用によって特異な水和構造をとり、細孔内部と外部で電解質の濃度が異なることが多い。そこで、メソポーラスシリカSBA-16 (細孔径7.8 nm) 細孔内に0.0-4.0 M NaCl重水溶液を取り込ませたものを測定試料とし、2H NMRと23Na NMRを用いて水溶液中の水分子のダイナミクスとNaイオン周辺の構造について解析し、NMRを用いて細孔内と細孔外でのNaCl重水溶液の濃度の定量を行った。 23Na NMRの低温での線幅から Na位置での電場勾配パラメータはBulkのNaCl・2H2OやNaCl水溶液のものよりもわずかに大きいことが分かった。しかし、Bulkの値からのずれは小さく、このことから7.8 nmの制限空間内でのNa+イオン周辺の局所的な環境はBulkのものに近いことが分かった。23Na NMRスペクトルの測定を異なる2種類の静磁場強度で行なうことで、化学シフト相互作用と2次の四極子シフトの分離を試みた。2次の四極子シフトの磁場依存性からもNa位置での電場勾配パラメータはBulkの値に近いことが確かめられた。 23Na NMR信号強度と2H NMR信号強度の比を測定することでSBA-16細孔内に取り込まれたNaCl重水溶液のNa濃度を定量した。塩濃度が比較的低いとき(0.5-2.0M)には細孔内でのNa濃度は試料全体でのNa濃度に比べて高くなることが分かった。これは細孔内でNaCl水溶液とシリカ表面との間の親和性が高いことを示唆している。一方、高濃度領域(4.0 M)では低濃度で見られた濃度の不均一性は見られなかった。これは塩濃度が飽和に近いためであると考えられる。
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