研究課題/領域番号 |
24651114
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 健二 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50127073)
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研究分担者 |
長谷川 雅考 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノチューブ応用研究センター, チーム長 (20357776)
中嶋 薫 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80293885)
鳴海 一雅 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 高崎量子応用研究センター, 主任研究員 (90354927)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フラーレンイオン / ナノ細孔 / イオントラック / シリコン窒化膜 |
研究概要 |
種々の厚さのSiN薄膜に数百keVのエネルギーを持ったC60+イオンを照射して、貫通細孔が形成される可能性を探った。照射した試料は透過型電子顕微鏡を用いて、TEMモードおよびHAADF-STEMモードで観察した。HAADF-STEM像を解析することにより、照射痕内の密度分布を求めたところ、膜厚が5nmのSiN薄膜に720keVのC60+イオンを照射した時、イオントラック中央部で原子密度が70%程度減少していることがわかった。この結果は、さらに条件を探ることによりC60+イオン照射による貫通細孔の直接形成が可能であることを示唆している。また、これらの研究と並行して非晶質中のイオントラック(照射痕)形成のメカニズムについての検討も行った。高速重イオン照射により生じるイオントラックに関する従来の研究では、トラックの形成には電子的阻止能の寄与が大きいと考えられてきた。今回利用した120keV~5 MeV程度のC60+イオンでは、エネルギーにより電子的阻止能と核的阻止能の比率が変化するため、イオントラックのエネルギー依存を調べることにより、電子的阻止能と核的阻止能のどちらがより効果的にイオントラックの形成に寄与しているかを調べることが可能となる。また、比較のため核的阻止能が電子的阻止能に比べてほど完全に無視できる200MeVのAuイオンの照射も行ない比較した。その結果、イオントラックの形成には核的阻止能の効果が大きいことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極薄シリコン窒化膜に、日本原子力研究開発機構の高崎量子応用研究所の静電型イオン注入器で数100keVに加速されたフラーレンイオンを種々の条件で照射し、形成された照射痕を走査透過型電子顕微鏡で観察して、照射痕の原子密度の変化を定量的に評価する方法を確立することができた。この方法により、照射痕の形成メカニズムについて検討し、電子的阻止能以外に核的阻止能が照射痕形成に大きく寄与していることを明らかにできた。この知見は、貫通細孔の形成条件を探る際の指針として有効に利用できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は更に膜厚や照射条件を変化させて貫通細孔の形成条件を探る。また、これまで観察された照射痕の原子密度の減少量は、C60+イオン1個の照射により数千個の原子が失われたことを示唆しており、大変興味深い結果である。C60+イオンの照射により実際にどれだけの原子がスパッタリングにより放出されているのかを定量的に調べるために、照射した試料の高分解能RBS測定を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、試料のSiN薄膜やSiO2薄膜の購入費用、C60イオン照射実験の旅費、資料収集や成果発表の旅費に使用する予定である。
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