研究課題/領域番号 |
24651118
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
木村 啓作 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 名誉教授 (70106160)
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研究分担者 |
八尾 浩史 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (20261282)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 無染色画像 / 透過走査電子顕微鏡 / グラフェンオキシド / 単分子タンパク質 / 電子顕微鏡基板 |
研究概要 |
本申請研究の目的として2年間の研究期間内に「クライオTEM(透過型低温電子顕微鏡)など特殊な装置を用いず、またタンパク質の染色操作を行わずに、タンパク質単一分子が走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてどの大きさまで確認できるか」に挑戦することとした。きっかけは2004年に一原子層厚さの究極の薄膜基板であるグラフェンが発見されたことである。本研究では、その親水性化合物であるグラフェンオキシド(GO)をSTEMの基板として取り上げ、無染色タンパク質で1nmの分解能を達成しようとするものであり、具体的に以下の研究目標を掲げた。 1. 染色無しのタンパク質単分子の電子顕微鏡画像化を可能にする0.3nm厚さの単原子層GO基板の実用的な作製法の開発;2. GOを基板とする無機極微結晶の検出と解析;3. 低加速電圧でも分解能を低減させない試料の調製法の開発;4. 無染色条件下で大きさ3 nmのリゾチーム分子の画像化。 この内平成24年度には 1)GOの電子ビーム耐性の改善を行った。 すでに準備段階でGO基板作製に成功しているが、電子ビームに対する耐性が充分でなく、40万倍以上の高倍率観察においてコンタミネーションに悩まされることが多かった。製造時にGOの酸化の可能性があり、雰囲気制御下でGOを作製する必要がある。H24年度内に全システムをアルゴン等不活性ガス雰囲気下で製造できるように変更した。 2)サイズ数ナノメートルのNaClのSTEM電子顕微鏡写真の撮影を行った。 原子番号Z=6の炭素原子を主要構成要素とするタンパク質の電子顕微鏡観察に直ちに挑む前に、Zが大きくより観察しやすいNaの電子顕微鏡測定を行う。結晶化しやすいNaClにおいては、ナノ粒子を作製することがチャレンジであるが、キセロゲル化することにより10 nm程度のナノ粒子を作製して、その電子顕微鏡画像をとることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度内の研究計画として次の三つを掲げた。1)GOの作製法の改良と評価。特に電子ビーム耐性の改善;2)サイズ数ナノメートルのNaClの電子顕微鏡写真の撮影;3)NADHユビキノン酸化還元酵素の画像検出。 この内1)および2)が達成された。特に1)GOの作製法の改良と評価に関しては関連する準備段階の研究が審査付きの論文誌(Bulletin of the Chemical Society of Japan, 86 (2013) 333-338)において論文賞受賞の栄誉に輝いた。これについて詳述する。 すでに研究実績において述べているように我々はGO基板の作製に成功しているが、電子ビームに対する耐性が充分でなくコンタミネーションに悩まされていた。この原因を探るためコンタミネーションの進行を定量的に把握し、基板処理との関係を求めた。コンタミネーション反応は一次反応速度式に従い、機構は比較的簡単なものであることが示唆され、雰囲気制御実験の結果と合わせ、酸化反応が基板安定性に影響していることを突き止めた。この結果、H24年度はAr雰囲気下での実験環境の設営に注力し、安定なGO基板が作製できるようになった。 無機ナノ粒子の作製に関しては、市販品の化粧用ミスト発生機を用いてNaClナノ粒子の発生に成功し、電子顕微鏡写真をとることができた。これに関しては論文執筆予定である。タンパク質が凝集しないように離散的にGO基板上に付着させること自体がまだ充分には確立していない技術であるが、NaClナノ粒子の成功により充分なタンパク質濃度と粒子の離散性を一挙に達成することができるようになった。3)の酸化還元酵素はサイズが20 nmである。より大きなタバコモザイクウィルスを用い、GO基板を用いて無染色での予備実験に成功した。 以上より、当該年度の研究は順調に進んでいると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
元々の平成25年度内の研究計画として次の四つを掲げていた。1)歩留まり20%の大面積グラフェンオキシドの作製技術の開発;2)大きさ3nmのリゾチームの画像化;3)タンパク質と親和性のある金ナノ粒子とタンパク質とのハイブリッド分子の電子顕微鏡観察; 4)2nm の金ナノ粒子のSTEM による確認。しかし研究代表者の所属機関の移動がおこり、計画の変更が必要になった。最終目標であるタンパク質一分子の画像化を損なわないよう以下に述べるように計画を縮小変更する。 平成25年度前半は新たなラボの構築に注力する。ドラフト設備などの実験空間は与えられているが、細かな実験設備は用意されていないため、次節に述べるような実験機器を科研費から購入設置する。本格的な実験開始は8月からと予想している。 1)国際会議での成果(NCSS2010,Makuhari)を基盤として歩留まり50%を越えるGO基板の開発を行う。これは24年度実施の電子ビーム耐性基板とは異なり、GO基板の面積を大きくして、タンパク質の観察を容易にするためのものである。2)大面積の基板を使用して無染色状態で単一タンパク質の観察を行う。使用タンパク質は当初予定のリゾチームから予備実験が進展しているNADHユビキノン酸化還元酵素に変更する。タンパク質分子は完全に離散状態にしてしまうと、基板とのコントラスト差が小さいためその位置の確認が困難になる。しかし前年度にナノミスト装置を用いてNaClナノ粒子の分散化と画像化に成功しているため、分散の制御には困難は無いと予想している。NADHユビキノン酸化還元酵素は大きさがおよそ20 nmであるので、その形状が確認できれば、分解能は10 nmをきることになる。 3), 4)は本申請の「タンパク質一分子の画像化」に直接関係しないため計画から除外する。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請書において平成24年度は合計120万円(年度内の内訳:物品費;90万円;旅費、20万円;その他、10万円)、25年度は合計180万円(内訳:物品費、130万円;旅費、30万円;その他、20万円)となっている。平成24年度はほぼ予定どおり消化しており、繰越金はない。平成25年度の大枠に変更はないが代表者の所属機関変更に伴い、小型の実験機器購入の細目が変更になる予定である。 通常の合成実験に必要なガラス器具や試薬の他に、新規に実験室を立ち上げるため小型の機器;ロータリーエバポレーター、湯浴、攪拌機、乾燥機、卓上遠心器、真空デシケーター、油回転ポンプ、アスピレーター、冷蔵庫等の購入を計画している。従って旅費等の一部をこれに充当することも考慮している。これらを予算が配分され使用可能となってから1ヶ月くらいに購入する予定である。設置準備も含めて8月には実験が開始可能になると予想している。 旅費の主要部分は学会出張、およびナノテクセンターには電子顕微鏡などの大型設備が無いため、学外の施設を借用する必要があり、そのための施設利用旅費を計上してある。またその他の費目は前任地からの試料や小型機器の輸送費を予定している。論文印刷費もこの費目に計上してある。
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