研究課題/領域番号 |
24651123
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 信夫 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 教授 (40126876)
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研究分担者 |
齋藤 晃 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 准教授 (50292280)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピン偏極電子銃 / 低加速電子顕微鏡 / 散乱実験 |
研究概要 |
近年、ナノ構造材料や生体物質の微細構造観測の際のダメージ低減のために、低加速エネルギーの透過電子顕微鏡法が注目されている。これらは収差補正技術の向上ならびにクライオ試料ホルダーを備えることにより可能となってきている。特に60keV~20keV程度の電子線では、その振る舞いは相対論と非相対論の中間に位置する。このため、クーロン相互作用のみならず、スピンとの相互作用の効果が現れてくるエネルギー領域となり非線形性が出現することが期待できる。 このために相対論を考慮した電子スピンと物質の相互作用を、まずは理論的アプローチから進めた。これにより弾性散乱におけるハミルトニアンからシミュレーション(マルチスライス法)が可能な形を導くことに成功した。また実験的探求をも可能にするため、透過電子顕微鏡にて広角散乱を用いた磁気散乱項の測定を可能にするための装置・測定系の構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①磁気散乱項の測定を可能にするための装置・測定系の構築:透過電子顕微鏡にて広角散乱を用いた磁気散乱項の測定を可能にするための装置・測定系の構築を行った。 ②スピンとの相互作用を入れた数値計算:また、平行して、スピン軌道相互作用、双極子-双極子、スピンの交換相互作用を取り入れた議論を行っていき、スピンとの相互作用を入れた数値計算を行った。次に相対論効果を取り入れた場合の磁気散乱について、まず解析的手法により計算を進めた。また、これに伴い、シミュレーションコードの作成を開始した。 ③透過電子顕微鏡において広角散乱実験条件を詰める:実験については、透過電子顕微鏡において広角散乱実験条件を最適化した。そして、プローブビームが無偏極電子線の場合で磁気散乱が観測されるのかどうかを確認した。一方、既存のスピン偏極電子源を用いて、広角散乱における非対称度を測定する実験系を構築した。このときのスピン依存の広角散乱した電子信号は微小であると予想された。よって、入射電子線に時間変調をかけ、ロックインアンプを通すことで微小電流計測が可能な測定系の構築を行った。
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今後の研究の推進方策 |
スピン偏極電子を用いた散乱実験を本格的に進め、その散乱断面積を見積もる。これと平行してシミュレーションを行い、実験・理論の両面から研究を推進する。これにより、相対論と非相対論の中間に位置する低加速エネルギーの透過電子顕微鏡法での振る舞いを、スピンとの相互作用を含めたアプローチで解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
①前年度に準備を行ったスピン偏極電子を用いた散乱実験を開始する。これにより、散乱断面積のスピン依存性について、電子エネルギー、散乱角度に対する振る舞いを測定する。また、散乱起因物質による散乱断面積の違いについても、フェロ磁性やフェリ磁性体の磁化方向や転移温度(キュリー温度)に対する物性的変化を測定可能であるのか検証する。 ②スピン偏極電子線はレーザー誘起型の電子源であるので、ドライブレーザーに時間変調をかけることで容易に電子線の時間構造を変えることが可能である。このため、電子源を制御しているレーザーに時間変調をかける光学系の構築を進める。次にロックイン可能な変調時間を決定し、S/Nの向上に努め、時間変調した電子線による微小電流計測系の確認を行う。 ③実験としてはスピン偏極電子線を用いた場合に、磁気散乱による効果が顕著に現れるか測定を行う。このとき広角散乱において、方位による電子線信号の偏りに注視して計測を進める。この時、電子顕微鏡における測定方法として、明視野と暗視野の二通りある。よってまず通常の明視野像において、スピン偏極方向の反転により、像強度の差分をとることでクーロン相互作用項を差し引く。このときに非対称度が確認されるか、ある場合には相互作用の強さが如何程かを測定する。次に暗視野像を取得し、先程と同様にスピン偏極方向の反転によりバックグラウンド成分を削除し、そのデータにスピン依存の差がどの程度出るのかを確認する。この効果をより詳しく、また物理的議論ができるよう、散乱角依存についても測定を行う。
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