単一分子レベルでの磁性有機分子の観測と制御は、有機スピントロニクス分野における非常に重要な課題である。本研究課題では、固体表面上に展開した有機分子に磁性STM探針からスピンを注入し、アインシュタイン・ドハース効果の原理を用いて有機分子を回転させることを目的として研究を行った。有機分子は真空蒸着の容易なポルフィリンを用いた。また、スピン角運動量から軌道角運動量に転写することを目的として、分子の中心にスピン軌道相互作用の大きなPt原子を配位結合させたものを合成して用いた。超高真空中で銅(111)清浄表面に基板に吸着させたところ、ポルフィリン分子は異なる2種類のコンフォメーションを取ることがわかった。これは強い分子-基板間相互作用の存在を示唆しており、分子回転には不利であることがわかった。この起源を明らかにするため、現在、吸着分子電子状態の理論計算を行っている。分子-基板相互作用を減らすために、以下の2つの方法を試みた。一つは、絶縁体であるNaClを2原子層程度基板上に成長させ、分子との相互作用をファンデルワールス力のみに限定する方法であり、もう一つはブチル基を分子に付加させてスペーサーとし、分子のπ電子と金属基板との直接的な相互作用を避ける方法である。特に後者の方法が有効であり、ブチル基を付加したポルフィリンは非常に基板表面で移動しやすいことを見出した。これまでに探針の影響を受けて分子回転を行う様子を観察することに成功している。しかし、回転と同時に分子の平行移動も起こるため、分子回転軸を安定化させる条件を調べている。現在、有機分子の回転方向をより明確にするため、一部のブチル基にマーカーをつけた非対称なポルフィリン分子を用いて実験を継続している。
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