本研究では、金属ナノ構造に誘起される局在プラズモンの緩和過程をナノ熱源として用い、熱加工や熱化学反応を、ナノメートルサイズの局所領域で実現することを目指した。 最終年度は、低温域でのナノ熱源利用として、前年度までに予備的に成功していた2つの実験「100℃付近で起こるDNA融解」と「200℃程度を必要とする水素終端化Si基板へのSi-C結合導入」について、詳細な追加実験を行った。特に後者については、加熱用光源の短パルス化による局所加熱の空間分解能向上について検討を行った。その結果、少なくとも10ピコ秒程度の短パルス光までは、多光子励起反応を伴わず、空間分解能の向上が期待されることが分かった。また、より高温の局所加熱に対応するために、金よりも融点の高い白金族のナノ構造体に着目し、プラズモン共鳴強度を確保するため、金と白金の合金化やダイマー構造・積層構造などを設計し、高温ナノ熱源としての局在プラズモン利用の可能性を示すことに成功した。 研究期間全体の成果として、ナノ熱源による局所加熱利用という新しい概念について、2つの実例を通じてその有効性を実験的に示すことに成功した。プラズモン共鳴波長の異なるナノ構造が共存する混合溶液中での選択的加熱やSi基板上へのナノサイズの分子修飾パターニングなど、従来の加熱法では不可能な熱反応の局所利用について道を開いた。また、金属ナノ構造の設計によって、より高温でのナノ熱源の実現可能性を提示した。この成果を活用し、SiC基板表面におけるグラフェンの局所生成について、引き続き検討を続ける予定である。なお、本研究において、グラフェンへ近接させた金ナノ構造の光励起実験を行う過程において、本来は禁制な光学遷移過程が光局在化によって許容となる証拠も確認することが出来た。このように、本研究の成果により、金属ナノ構造への光の局在化に基づく、新たな技術基盤を確立した。
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